×

社説・コラム

『潮流』 谷川さんの詩心

■報道センター文化担当部長 道面雅量

 今読むと、やや時代がかって響くかもしれない。「原爆をつくるな/つくるなら/花をつくれ」。詩人の谷川俊太郎さんが1960年8月の第6回原水爆禁止世界大会に賛同し、資金を募る「国民募金帳」に寄せた詩の冒頭だ。谷川さんの訃報を受け、11月27日の朝刊でその経緯やエピソードを紹介した。

 60年といえば、日米安全保障条約改定を巡って世論が揺れた年。6月19日の自然承認まで、国会議事堂を連日、デモ隊が取り囲んだ。

 激しい「政治の季節」にあって、「花をつくれ」のフレーズは牧歌的過ぎたのではとも思うが、広く国民的な賛同を得る上では効果的だったようだ。各地の原水禁運動の現場で合言葉のようになった。のちに青森市街の緑地帯に八重桜が植樹された際、「原爆をつくるより花をつくれ」の看板が登場したという。

 谷川さんは、大衆の心をつかむコピーライター的な才能も傑出していたように思う。この大詩人が背負っていた業(ごう)と感じられるほどに。

 詩は冒頭の3行の後、「つくるなら/家をつくれ/つくるなら/未来をつくれ」と続き、転調して「戦争にちからはかせない」とつづられる。ここにきて、私は現代性を強く感じる。

 今、例えばパレスチナ自治区ガザでの戦火を受け、イスラエルと関わりの深い企業の製品などをボイコットする運動が広がる。私も、イスラエル関連だけではないが、いくつかの銘柄は買うのを避けてきた。戦争や差別に「ちからはかせない」意思表示として。

 詩は続いて「だが/平和のためになら!」で締めくくられる。谷川さんの詩心と志が、今に響いてくる。

(2024年12月5日朝刊掲載)

年別アーカイブ