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熱き写真家の原点たどる 砂入博史監督 「オキナワより愛を込めて」 石川真生さんを取材 3部作に

 広島市東区出身の砂入博史監督(52)が、沖縄を拠点とする写真家石川真生さん(71)を取材したドキュメンタリー3部作を制作中だ。各地で上映が進む新作「オキナワより愛を込めて」は、1970~80年代の沖縄で黒人米兵たちと正面から向き合った石川さんの初期作品に光を当てた。砂入監督は「人間として作家として尊敬する真生さんの生きざまを、本人の言葉でありのままに伝えたい」と語る。(渡辺敬子)

 72年に日本復帰した沖縄。米軍統治下時代から基地が集中し、関連する事件事故が相次いだ。数多くの女性が性被害を受け、泣き寝入り。沖縄人同士が分断され、対立する構図もつくられた。怒りをばねに石川さんは写真家を志す。米兵を撮る目的で黒人が集うエリアのバーで働き始め、仲間たちの「熱き日々」に入り込んだ。

 映画では、石川さんが「宝物」と誇る当時の写真集をめくり、思い出の場所を訪ね、人間模様をたどる。「米兵」とひとくくりにすることなく、被写体一人一人と「人間」として向き合った日々は真っすぐで体当たり。それは、写真家として現在まで一貫する姿勢の原点だった。

 「どこで働いてもいいんだ。誰を愛してもいいんだ。この人たちは素晴らしいよ」「米兵は愛しているけど、米軍は大嫌い」「醜くも美しい人の一生、私は人間が好きだ」。カメラを持つ砂入監督との対話から生まれる自然体の言葉は心地よく、詩を紡ぐように美しい。写真作品と同様に、政治や歴史の壁、人種差別を乗り越える愛と生命力があふれている。

 砂入監督は90年に渡米。アジア人男性である少数派の視点から、現代美術作家としてニューヨークを拠点に活動し、大学でも教えてきた。黒人への差別を主題に映画を構想していた2017年、米国の大学生の前で沖縄と自作を語る石川さんの力強い言葉に圧倒され、取材を申し出た。

 体をがんにむしばまれ、人工肛門を使う石川さんが自宅でシャワーを浴び、術後間もない傷口を見せる場面は圧巻だ。「人の私生活をさらけ出してきたから、撮られることは拒否しない」。表現者としての覚悟を共有する2人だからこそ実現した映画なのだろう。

 広島市西区の横川シネマで14日から上映し、14~16日と19~22日は砂入監督が舞台あいさつする。本作と「怒り」をテーマに制作中の映画と共に、3部作の一つとなる「オキナワ・フィラデルフィア」も21、22日に上映する。同館☎082(231)1001。

(2024年12月7日朝刊掲載)

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