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連載・特集

緑地帯 玉本英子 ウクライナ 戦火の地で②

 ウクライナ南部オデッサの18歳の学生ダーシャさんは、「鬼滅の刃(やいば)」の大ファンだ。登場人物の竈門禰豆子(かまどねずこ)のコスプレをして、交流サイト(SNS)に動画をアップする。「日本のアニメはストーリー性があり、人生の意味さえ教えてくれる」

 彼女を悲しみが襲ったのは2年前。ウクライナ軍将校だった父が戦死したのだ。「家族、愛する人を亡くすことが、どれだけつらいことか。たとえ敵であっても、戦争なんか経験してほしくない」。軍服姿の遺影の脇には、父が好きだったキャンディーが供えられていた。

 ダーシャさんには同級生のボーイフレンド、ヴァリクさんがいる。彼は言う。「戦争はアニメや映画の中の出来事と思っていたが、まさか現実となって自分たちに降りかかるなんて」

 ヴァリクさんは、卒業後の進路を決めかねていた。調理師学校へ進学するか、領土防衛隊に志願するか。領土防衛隊は各州に置かれた部隊だが、戦況悪化で前線にも送られるようになった。「ウクライナの自由と独立のために、僕もできることをしたいんだ」。だが、両親は反対しているという。戦況悪化で死傷者が絶えないからだ。

 ダーシャさんは、彼の思いは汲(く)みつつも、兵士になるのはやめてほしいと望んでいる。「大切な人、愛する人を亡くす悲しみはもうたくさん」。ウクライナでも、そしてロシアでも、愛する人が日々、この戦争で命を落とし、多くの涙が流れている。 (ジャーナリスト=大阪府)

(2024年12月10日朝刊掲載)

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