天風録 『目に焼き付いた戦争』
24年12月11日
関心が薄れていた人も多いだろう。シリア情勢に。アサド政権が崩壊した。半世紀以上続いた独裁体制。それを反体制派があっという間、10日ほどで打ち倒す。ロシアやイランから政権への軍事支援が薄れた隙を突いた▲「うれしいが同時に恐ろしい。何が起きるか」。市民は話す。独裁者は去ったものの、周辺国の思惑も絡み、国の先行きは見えてこない。長い内戦に、イスラム国の介入もあった。住民も国土もすっかり疲弊している▲「爆撃と戦争しか記憶にない」。命からがら逃れた難民も多い。昨年2月のトルコ・シリア大地震で両国の子ども700万人が被災した。内戦に災害。子どもたちが気がかりだ。瞳に映ってきたのは何だろう。大勢が憎み合い、殺し合う光景ではないか▲ノルウェー・オスロの会場に、被爆者による「原爆の絵」が並ぶ。日本被団協のノーベル平和賞受賞に合わせて。あの日、被爆者の目に焼き付いた光景である。数え切れぬ遺体、電車の乗降口で黒焦げになった母子…▲「貧者の核」がシリアには残されているらしい。開発費の安い化学兵器のことだ。子どもの目に映る戦争や兵器、絶望的な状況。私たちはいつ、消し去れるのだろう。
(2024年12月11日朝刊掲載)
(2024年12月11日朝刊掲載)