×

ニュース

核と決別 うねり今こそ 逆行する国際情勢の壁 被爆証言 変革の力

 ノーベル平和賞を受賞した日本被団協の田中熙巳(てるみ)代表委員(92)は授賞式で自らの凄絶(せいぜつ)な体験を語り「核兵器は人類と共存できない、共存させてはならない」と力強くスピーチした。核兵器が人間に何をもたらすのか。世界中に知らしめた一方、核なき世界の実現にはなおも多くの壁が立ちはだかっている。(森田裕美、小林可奈)

 昨今の国際社会の情勢は、核兵器の速やかな廃絶を求めてきた日本被団協の訴えとは、遠く隔たっている。核保有国間の対立、ロシアのウクライナ侵攻、事実上の核保有国イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃などを背景に、核軍縮の機運はしぼんでいる。

減少傾向頭打ち

 長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)の2024年の推計で、世界の核弾頭総数は約1万2120。昨年から微減とはいえ、減少傾向は頭打ちで、むしろ反転しかねない状況だ。保有国は核戦力の維持に加え、近代化と質的強化を進めている。覇権主義を強める中国や核戦力開発を進める北朝鮮を念頭に、日本や韓国でも米国の「核の傘」に頼る「拡大抑止」の強化を求める声が上がる。

 核拡散防止条約(NPT)再検討会議は2015、22年の直近2回で決裂。米ロ唯一の核軍縮合意「新戦略兵器削減条約(新START)」はロシアが23年に履行停止を表明しており、26年の期限切れを前に瀬戸際の状況にある。ロシアやイスラエルは核使用のどう喝を繰り返している。

 一橋大の秋山信将教授は「国際社会での核兵器の役割は増し、抑止の手段として有効性や必要性を認める動きが進んでいる」と現状を見る。今回の受賞について、被爆者の訴えが持つ力を認めつつも「現に存在する核の脅威に対し、ただちに影響を与えることはない」との見方だ。

核禁条約後押し

 ただ「厳しい情勢だからこそ、核軍縮を放棄するようなことがあってはならない」とも強調する。「日本被団協の受賞は、核なき世界という人類が目指すべき方向を再確認する意味がある」

 国際社会を動かすのは国家の安全保障政策だけではない。被爆者と共に核兵器禁止条約を推進し、17年にノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))のティム・ライト条約コーディネーターは「被爆者の証言が人々の意識、国際社会を変革させる力になる」とする。

 ノーベル平和賞には、活動を後押しする意味合いもある。現在、核兵器禁止条約には94カ国・地域が署名、73カ国・地域が批准している。ICANの受賞が条約への賛同の広がりを後押しした側面は大きかろう。

 日本被団協の受賞は、志を同じくする者にも追い風となる。ICANは世界各国の外相に手紙を送り、今回の受賞に言及した上で、被爆者の声に耳を傾けるよう促した。「受賞を単なるお祝いで終わらせず、具体的行動を共に加速させる契機にしたい」と力を込める。

(2024年12月11日朝刊掲載)

年別アーカイブ