被団協 ノーベル平和賞 核権力に対抗 連帯を 森滝春子さん 父市郎さんに思い 「解決 人間の手で」
24年12月12日
喜ぶだけでは犠牲者利用に
平和を希求してきた全ての被爆者をたたえた、ノーベル平和賞授賞式。平和活動家の森滝春子さん(85)=広島市佐伯区=は、亡き父に思いをはせた。日本被団協の礎を築き、原水爆禁止運動に人生を賭した森滝市郎さん。「父の言葉通り、巨大な核権力に対抗するには世界の人々と連帯するほかない。先人の運動をさらに進める契機にする」と覚悟を新たにした。(編集委員・田中美千子)
式典中継は自宅で見届けた。ノーベル賞委員会のフリードネス委員長が核兵器を持つ9カ国を名指しして核戦力に固執する姿勢を糾弾。「被爆者の遺産を受け継いでいくのは全ての人間の責任」と行動を促すと、思わず拍手した。
「世界の危機的状況を鑑み、大国に弓を引いた。その決意を父もきっと評価したはず」と春子さん。代表委員の田中熙巳(てるみ)さん(92)が高齢を押してノルウェー・オスロに赴き、毅然(きぜん)と演説する姿にも安堵(あんど)した。ただ、受賞については「父は決して喜びはしなかった」とみる。
市郎さんは江波町(現中区)で被爆し、右目を失明した。たどり着いたのは「核と人類は共存できない」という信念。核実験が強行される都度、原爆慰霊碑を背に抗議の座り込みを重ねた。
「生き残ったことに強烈な後ろめたさを抱え、父は犠牲者の声を背負い、代弁していく人生を選んだ」。父の背を追ってきた娘は言う。「賞を喜ぶだけでは犠牲者を利用したことになる。罪深いことだと、私も思う」
春子さん自身も、市民団体「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会(HANWA)」共同代表として反核運動に力を注ぐ身。問われるのは受賞をいかに生かすかだ、という。「核は人間がつくった最大の罪。生き延びるには人間の手で解決するほかない。核の列強との闘いは確かに厳しいが、最後には連帯の力が勝利する」
(2024年12月12日朝刊掲載)