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社説・コラム

天風録 『核廃絶のバトン』

 南米に伝わる民話がある。森の火事で動物たちが逃げ惑う中、1羽のハチドリが川から水をすくい、1滴ずつ炎に落としていく。笑われても「私は、私にできることをする」と▲広島市の平和記念公園近くにあるカフェ「ハチドリ舎」の由来である。おととい夜は若者ら20人が集い、日本被団協へのノーベル平和賞授賞式の中継を見守った。店内を包んだのは喜びや感動だけではない。核廃絶に向け、自分に何ができるのか。ヒントを探る熱意に満ちていた▲広島で核問題を考える若者の団体が企画した。代表の一人、田中美穂さんは「被爆者任せでなく、私たちの問題として向き合う」と誓う。15歳の男子高校生は言った。「広島で育ったのに、原爆を知らないことが分かった」。新たな継承の芽だろう▲昨今の情勢を見れば、核なき世界への道のりは遠く険しい。「核には核を」の論理が幅を利かせる。だが被爆者が逆境でも望みを捨てず声を上げ、行動を続けてきたことを忘れてはなるまい。引き継ぐべきものは多い▲ノーベル賞委員長は被爆者を「世界が必要としている光」とたたえた。か細い光、ひとしずくの水でいい。私たちも核廃絶のバトンを継ぐ一員である。

(2024年12月12日朝刊掲載)

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