[被団協ノーベル平和賞] 被爆者の願い 響かぬ政府 深める核抑止への依存
24年12月12日
核禁条約参加「検討」 本気度に疑問
日本被団協のノーベル平和賞受賞を受け、被爆国としての日本政府の動向に注目が集まっている。石破政権は被団協が求める核兵器禁止条約の締約国会議へのオブザーバー参加を「検討」しつつも、厳しい安全保障環境を理由に米国の核抑止への依存を深めている。検討の本気度を疑問視する声も上がる中、核廃絶への具体的な行動はなお見えてこない。(樋口浩二、宮野史康)
林芳正官房長官は11日午前の記者会見で「核抑止を含む抑止が、わが国の安全保障を確保する基礎との考えに変わりはない」と述べた。半日前に被団協の田中熙巳(てるみ)代表委員(92)が受賞演説で訴えた「核抑止論ではなく、核兵器は一発たりとも持ってはいけない」との被爆者の願いと相反する趣旨。林氏の発言は、従来の政府見解は不変と明示した格好だ。
石破茂首相は近年の安倍、菅、岸田政権とは異なり、核兵器禁止条約へのオブザーバー参加を探ってはいる。9月の自民党総裁選中の取材にオブザーバー参加を「選択肢の一つ」と発言。今月10日の衆院予算委員会でも「どのように役割を果たせるか検討する」と含みを持たせた。
だがこうした発言をする際には決まって、北朝鮮による核・ミサイル開発など「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境」を挙げ、核抑止の重要性を説く。6日の参院予算委で首相にオブザーバー参加を迫った立憲民主党の森本真治氏(参院広島)は「首相の本気度は見えなかった」と率直に語る。
オブザーバー参加の検討に関し、条約に否定的な米国との関係を重視する外務省が「ブレーキをかけている」との見方も与野党に根強い。公明党の斉藤鉄夫代表は「外務省を説得する」とまで言った。事実、同省幹部は条約への姿勢は「変わっていない」と明かす。核保有国の不参加を理由に距離を置いた岸田政権の考え方を踏襲している。
10日には日米の「拡大抑止」協議が日本で始まった。核戦力を含む米国の軍事力でいかに日本の防衛力を高めるかがテーマの会合。授賞式と同日の開催に野党幹部は「核抑止からの脱却など全く念頭にない政府の姿勢を象徴している」と批判する。
受賞演説で田中代表委員が繰り返し言及した、被爆して亡くなった人への国家補償についても林氏は11日、「戦災で亡くなった一般の方々と同様に給付等は行っていない」と事実関係の紹介に終始した。
核廃絶へ「国際社会の取り組みを主導することは唯一の戦争被爆国の使命」と自負する政府。しかし実態は、被爆者が希求する核抑止からの脱却や原爆被害者への国家補償に背を向け続けている。ノーベル平和賞を被団協が受賞しても変わらないのか―。被爆者はよわいを重ねている。
(2024年12月12日朝刊掲載)