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社説・コラム

朝凪(あさなぎ) 記憶のディテール残す

 被爆直後の広島で大人たちが「玉音放送」に涙していた時、近くの空き地で美しいチマチョゴリ姿の女性が高らかに跳ねていた―。当時14歳だった被爆者矢野美耶古(みやこ)さんは、その鮮やかな光景が忘れられないという。大人には不都合な場面だったのだろう。見ないように言われたそうだ。本紙ジュニアライターの取材に同席した際に聞いた。

 矢野さんはのちにそれは朝鮮人女性が解放の喜びを表していたと知る。日本の植民地支配、朝鮮人の被爆、周囲のまなざし…。多くを物語るエピソードだが、「あの日」を記録する記事には書き切れなかった。

 ヒロシマの記憶は、原爆が投下された瞬間や直後の話に集約されがちだ。見落としたり省かれたりしてしまうディテールをいかに残すか。継承に携わる一人として考え続けている。(平和メディアセンター・森田裕美)

(2024年12月13日朝刊掲載)

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