緑地帯 玉本英子 ウクライナ 戦火の地で⑥
24年12月14日
ロシア軍の侵攻後、ウクライナでは国民総動員令が出され、18~60歳の男性は原則として出国できない。私は南部オデッサ州のモルドバとの国境地帯を訪れた。道路の脇に何台もの車が乗り捨てられている。軍務動員から逃れようとする男たちが車で来て、徒歩で国境を越えるのだ。同行してくれた地元記者のグレブさんは言う。「ここはまだましだ。ルーマニア国境では川で溺れ死んだ越境者もいる」
侵攻直後は国民の士気も高く、こぞって軍に志願したが、戦況悪化で入隊希望者は激減。政府は動員対象年齢をこれまでの27歳から25歳に引き下げた。さらに軍への個人情報登録を義務付け、違反すると運転免許停止などの罰則も設けられた。
街頭では、動員逃れを取り締まる兵士を見かけるようになった。抜き打ち検問まである。殴る蹴るの暴行を加えて動員忌避者を連行する例も起きている。
「国家存亡の危機にあるのに逃げるのか」。そんな声もあったが、国民が苦しむ中、汚職や不正に走る政治家や役人への怒りも大きくなっている。作戦失敗や武器不足で死傷者が絶えず、戦死した兵士の補償金未払いが相次いでいるのも、動員忌避が広がる背景にある。
「高齢の母の面倒を見るのは自分一人。前線に送られて戦死したら、母はどうなるのか。国も守りたいが、家族も大切だ」。グレブさんは、もし召集令状が届いたらどうするか、自分でも分からない、と苦しい心情を打ち明けた。 (ジャーナリスト=大阪府)
(2024年12月14日朝刊掲載)
侵攻直後は国民の士気も高く、こぞって軍に志願したが、戦況悪化で入隊希望者は激減。政府は動員対象年齢をこれまでの27歳から25歳に引き下げた。さらに軍への個人情報登録を義務付け、違反すると運転免許停止などの罰則も設けられた。
街頭では、動員逃れを取り締まる兵士を見かけるようになった。抜き打ち検問まである。殴る蹴るの暴行を加えて動員忌避者を連行する例も起きている。
「国家存亡の危機にあるのに逃げるのか」。そんな声もあったが、国民が苦しむ中、汚職や不正に走る政治家や役人への怒りも大きくなっている。作戦失敗や武器不足で死傷者が絶えず、戦死した兵士の補償金未払いが相次いでいるのも、動員忌避が広がる背景にある。
「高齢の母の面倒を見るのは自分一人。前線に送られて戦死したら、母はどうなるのか。国も守りたいが、家族も大切だ」。グレブさんは、もし召集令状が届いたらどうするか、自分でも分からない、と苦しい心情を打ち明けた。 (ジャーナリスト=大阪府)
(2024年12月14日朝刊掲載)