オスロの灯 被団協ノーベル平和賞 <中> 「核のタブー」重み再確認
24年12月14日
核兵器は道徳的に二度と使ってはならないという「核のタブー」。この存在を1990年代後半に提唱した政治学者としてノーベル平和賞授賞式で名前を紹介された米ブラウン大上級講師のニーナ・タネンワルドさんが、翌11日にノルウェー・オスロ大であった核軍縮フォーラムで訴えた。「タブーの重要性を再認識し、核兵器に汚名を着せ続ける必要がある」
フォーラムはノーベル研究所が主催し、200人超が聞き入った。タネンワルドさんは「ロシアのように、通常兵器の攻撃を防ぐために明らかな核兵器の威嚇を繰り返す事例は初めて」とも指摘。ウクライナや中東の情勢を背景に他の専門家も厳しい認識を示した。
保有国への警鐘
タブーが揺らぐ今だからこそ、草の根の証言活動で確立に貢献した日本被団協に平和賞が贈られた意味は増す。「核兵器保有国にとって不都合な平和賞だ」。9日、オスロ市内のホテルで被団協の代表団と意見交換後、中国新聞の取材に非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))事務局長のメリッサ・パークさんは言い切った。
核兵器の非人道性に関心が集まるほど、その兵器に依存する安全保障政策の正当性が下がるとみる。平和賞は「核兵器保有国への警鐘」となり、ICANの後押しで制定された核兵器禁止条約への支持を広げる好機と捉える。
受賞にさっそく反応したのがノルウェー政府だった。「核の同盟」である北大西洋条約機構(NATO)の加盟国。禁止条約を批准していないが、締約国会議には過去2回ともオブザーバー参加し議論に加わった。
ストーレ首相は11日、首相府に代表委員3人を招いて対談後、田中熙巳(てるみ)さん(92)との記者会見に臨んだ。会場には千羽鶴がつるされ、「被爆80年を前に時宜を得た平和賞だ」と歓迎。緊迫する国際情勢で、核軍縮が対話の糸口になると唱えた。
自国の禁止条約加盟には現時点ではNATOという壁があるとしつつ「条約の目的は強く支持する」と語った。田中さんは「最大の喜び」。終了後、2人は固い握手を交わした。
「反戦」でも注目
核兵器だけでなく、戦争を否定する被団協の言動もオスロで注目を浴びた。
代表委員の箕牧(みまき)智之さん(82)=広島県被団協理事長=は授賞式を終えた10日夕、中東の衛星テレビ、アルジャジーラの生放送に出演した。パレスチナ自治区ガザの状況を「子どもが血をいっぱい出しているのは80年前の日本と重なる」と指摘した受賞発表時の発言を好意的に取り上げられた。
当時、イスラエルのコーヘン駐日大使から「不適切」と反発されたが、この日も「ガザでも核兵器が使われるかもしれない。戦争を終え、核兵器が二度と使われないようにするのが私たちの活動だ」と明言した。
「世界の注目を浴びる中で語ってくれるのは本当に励まされる」。NGOピースボートなどが11日にオスロ市内で企画した交流会で、地元の反戦団体のマリエット・ロボさん(61)は喜んだ。平和賞をきっかけに被団協の運動への理解を深め、戦争を許さない精神を学んだ。「ガザの惨禍を乗り越える道しるべになり得る」(宮野史康)
(2024年12月14日朝刊掲載)
フォーラムはノーベル研究所が主催し、200人超が聞き入った。タネンワルドさんは「ロシアのように、通常兵器の攻撃を防ぐために明らかな核兵器の威嚇を繰り返す事例は初めて」とも指摘。ウクライナや中東の情勢を背景に他の専門家も厳しい認識を示した。
保有国への警鐘
タブーが揺らぐ今だからこそ、草の根の証言活動で確立に貢献した日本被団協に平和賞が贈られた意味は増す。「核兵器保有国にとって不都合な平和賞だ」。9日、オスロ市内のホテルで被団協の代表団と意見交換後、中国新聞の取材に非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))事務局長のメリッサ・パークさんは言い切った。
核兵器の非人道性に関心が集まるほど、その兵器に依存する安全保障政策の正当性が下がるとみる。平和賞は「核兵器保有国への警鐘」となり、ICANの後押しで制定された核兵器禁止条約への支持を広げる好機と捉える。
受賞にさっそく反応したのがノルウェー政府だった。「核の同盟」である北大西洋条約機構(NATO)の加盟国。禁止条約を批准していないが、締約国会議には過去2回ともオブザーバー参加し議論に加わった。
ストーレ首相は11日、首相府に代表委員3人を招いて対談後、田中熙巳(てるみ)さん(92)との記者会見に臨んだ。会場には千羽鶴がつるされ、「被爆80年を前に時宜を得た平和賞だ」と歓迎。緊迫する国際情勢で、核軍縮が対話の糸口になると唱えた。
自国の禁止条約加盟には現時点ではNATOという壁があるとしつつ「条約の目的は強く支持する」と語った。田中さんは「最大の喜び」。終了後、2人は固い握手を交わした。
「反戦」でも注目
核兵器だけでなく、戦争を否定する被団協の言動もオスロで注目を浴びた。
代表委員の箕牧(みまき)智之さん(82)=広島県被団協理事長=は授賞式を終えた10日夕、中東の衛星テレビ、アルジャジーラの生放送に出演した。パレスチナ自治区ガザの状況を「子どもが血をいっぱい出しているのは80年前の日本と重なる」と指摘した受賞発表時の発言を好意的に取り上げられた。
当時、イスラエルのコーヘン駐日大使から「不適切」と反発されたが、この日も「ガザでも核兵器が使われるかもしれない。戦争を終え、核兵器が二度と使われないようにするのが私たちの活動だ」と明言した。
「世界の注目を浴びる中で語ってくれるのは本当に励まされる」。NGOピースボートなどが11日にオスロ市内で企画した交流会で、地元の反戦団体のマリエット・ロボさん(61)は喜んだ。平和賞をきっかけに被団協の運動への理解を深め、戦争を許さない精神を学んだ。「ガザの惨禍を乗り越える道しるべになり得る」(宮野史康)
(2024年12月14日朝刊掲載)