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連載・特集

緑地帯 玉本英子 ウクライナ 戦火の地で⑤

 昨年5月、広島で開催された先進7カ国首脳会議(G7サミット)に招待されたウクライナのゼレンスキー大統領。原爆慰霊碑に献花した姿を覚えている人も多いだろう。ロシア軍の侵攻以来、各国首脳に支援を呼びかけ、日本や欧米のメディアでは大きく報じられてきた。ウクライナ国内で、彼はどう見られているのか。

 「侵攻に打ち勝つため頑張ってくれている」。かつては、そう評価する声が少なくなかった。侵攻から2年余りが経過し、戦況が悪化する中、空気は変わりつつある。街頭で人々に聞くと、生活の不満は話してくれても、政府については口ごもる。政権批判をすると「ロシアを利する」とみられるのを恐れているのだ。それでも胸の内を語ってくれる人はいた。

 ドニプロの36歳のIT技術者セルゲイさんは言う。「汚職と腐敗の根絶を掲げてゼレンスキーは大統領になったが、汚職は今も蔓延(まんえん)。人道支援物資を政治家が横領したり、国防省が軍用調達品の価格を水増ししたり。2019年の選挙で彼に投票したのを後悔している」

 ハルキウでホテルを経営する40代の女性は辛辣(しんらつ)だった。「彼は元々、喜劇俳優。テレビドラマで理想の大統領役を演じ、国民はその姿にだまされた。今は国民を笑わせるのではなく、悲しませる事態を招いている」

 今春予定されていた大統領選は戦時戒厳令で延期され、ゼレンスキーの続投となった。国民は次の選挙で誰を選ぶのか。 (ジャーナリスト=大阪府)

(2024年12月13日朝刊掲載)

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