社説 防衛増税 中身の点検 今こそ実行を
24年12月17日
歳末の税制見直し協議の中で、岸田政権から持ち越された「防衛増税」の考え方について自民党と公明党が合意した。2023年度から5年間では計43兆円とされる防衛力強化の財源の一部を賄う。
26年度から法人税、たばこ税の増税に着手する一方、国民が負担を実感する所得税の増税は、開始時期の決定をまたも先送りするという。
所得税課税の「年収103万円の壁」引き上げを巡り、手取りがどうなるかが国民の関心を集めている。そこに所得税増税など持ち出せない、と踏んだのだろう。
ちょっと待ってほしい。衆院選で与党が大敗し、防衛増税自体の潮目が変わったはずだ。立憲民主党をはじめ野党の選挙公約は膨張する防衛予算を精査し、増税ありきの与党を批判する姿勢が目立っていた。その割には与野党の協議でも、臨時国会の論戦でも埋没感があるのは残念だ。
もともと政府側のシナリオはこうだった。東日本大震災の復興特別所得税のうち1%分を引き下げて27年1月から防衛特別所得税に回し、それで約2千億円を取る。26年4月から大企業などに課税する防衛特別法人税は納税額に4%を付加する形となり、増税額は約6千億~7千億円。たばこ税の見直しでは、今は低めの「加熱式たばこ」の税率をまず26年度に「紙巻きたばこ」とそろえ、27~29年度の段階的増税で年に約2千億円を賄っていくという手法だ。
いかにも小手先に見える。焦点だった所得税増税先送りにしても抵抗感を和らげるのに腐心し、取りやすいところから取る印象は拭えない。
そもそも増税するほど防衛費を膨らませることが国民の腹に落ちていない。43兆円の総額の根拠も分かりにくく、しかも米国から兵器類を購入するなら円安で実質的に目減りしている。さらに言えば、2期目の米トランプ政権はもっと防衛費を増やせ、と無理を言ってくる恐れもある。
だからこそ防衛力の中身を点検することなく財源論に終始する与党の姿勢は疑問だ。一度立ち止まって日本の身の丈に合う防衛力を考え、本当に必要なものを積み上げるのが本来の姿だろう。年末に閣議決定される25年度政府予算案にしても、この夏の防衛省概算要求をそっくり反映した内容でいいとは思わない。
総額ありきで防衛力が膨張する現状は、やはり危うい。敵基地攻撃能力の柱であるスタンド・オフ・ミサイルなど敵と対峙(たいじ)する正面装備に予算配分が偏り、後方支援や人材育成には十分回っていると言い難い。自衛隊の定員充足率が向上せず、採用が難航する状況が続けば装備を強化しても運用はおぼつかない。
防衛力の基盤を支え、災害派遣も担うマンパワーの確保のためには予算を大胆に組み替え、例えば不急の大型装備を後に回してでも隊員の処遇や生活環境改善に思い切って投じる発想があっていい。
今からでも遅くはない。場当たり的な増税策をあれこれ考える前に、あるべき防衛力の中身について与野党は議論を尽くしてもらいたい。
(2024年12月17日朝刊掲載)
26年度から法人税、たばこ税の増税に着手する一方、国民が負担を実感する所得税の増税は、開始時期の決定をまたも先送りするという。
所得税課税の「年収103万円の壁」引き上げを巡り、手取りがどうなるかが国民の関心を集めている。そこに所得税増税など持ち出せない、と踏んだのだろう。
ちょっと待ってほしい。衆院選で与党が大敗し、防衛増税自体の潮目が変わったはずだ。立憲民主党をはじめ野党の選挙公約は膨張する防衛予算を精査し、増税ありきの与党を批判する姿勢が目立っていた。その割には与野党の協議でも、臨時国会の論戦でも埋没感があるのは残念だ。
もともと政府側のシナリオはこうだった。東日本大震災の復興特別所得税のうち1%分を引き下げて27年1月から防衛特別所得税に回し、それで約2千億円を取る。26年4月から大企業などに課税する防衛特別法人税は納税額に4%を付加する形となり、増税額は約6千億~7千億円。たばこ税の見直しでは、今は低めの「加熱式たばこ」の税率をまず26年度に「紙巻きたばこ」とそろえ、27~29年度の段階的増税で年に約2千億円を賄っていくという手法だ。
いかにも小手先に見える。焦点だった所得税増税先送りにしても抵抗感を和らげるのに腐心し、取りやすいところから取る印象は拭えない。
そもそも増税するほど防衛費を膨らませることが国民の腹に落ちていない。43兆円の総額の根拠も分かりにくく、しかも米国から兵器類を購入するなら円安で実質的に目減りしている。さらに言えば、2期目の米トランプ政権はもっと防衛費を増やせ、と無理を言ってくる恐れもある。
だからこそ防衛力の中身を点検することなく財源論に終始する与党の姿勢は疑問だ。一度立ち止まって日本の身の丈に合う防衛力を考え、本当に必要なものを積み上げるのが本来の姿だろう。年末に閣議決定される25年度政府予算案にしても、この夏の防衛省概算要求をそっくり反映した内容でいいとは思わない。
総額ありきで防衛力が膨張する現状は、やはり危うい。敵基地攻撃能力の柱であるスタンド・オフ・ミサイルなど敵と対峙(たいじ)する正面装備に予算配分が偏り、後方支援や人材育成には十分回っていると言い難い。自衛隊の定員充足率が向上せず、採用が難航する状況が続けば装備を強化しても運用はおぼつかない。
防衛力の基盤を支え、災害派遣も担うマンパワーの確保のためには予算を大胆に組み替え、例えば不急の大型装備を後に回してでも隊員の処遇や生活環境改善に思い切って投じる発想があっていい。
今からでも遅くはない。場当たり的な増税策をあれこれ考える前に、あるべき防衛力の中身について与野党は議論を尽くしてもらいたい。
(2024年12月17日朝刊掲載)