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回顧 中国地方2024 <5> 高濃度PFAS検出

特定 日米地位協定の壁

 「長年おいしいと思って飲んできた。体は大丈夫なのだろうか」。今月上旬、東広島市八本松町の小川憲作さん(77)はこう漏らした。自宅の井戸水が健康に影響する可能性があるとは思ってもみなかった。

 同町を源流とする瀬野川水系の川や周辺の井戸水から発がん性などが指摘される有機フッ素化合物(PFAS)が今年、高濃度で相次いで検出された。市の検査では計26地点で国の暫定指針値(1リットル当たり50ナノグラム)を上回り、指針値の300倍に上る地点もあった。

 市は周辺住民を対象に臨時の健康診断を実施。上水道敷設工事費を無利子で貸し付けた。小川さんも井戸水が指針値を超え、6月に急きょ上水道を引き込んだ。

 市は、汚染源が高濃度で検出された地点に近い米軍川上弾薬庫である可能性があるとみるが、特定には至っていない。米側に施設の排他的な管理権を認めている日米地位協定のため、日本側は米軍が許可しない限り施設に立ち入れないからだ。「フェンスの向こうは『よその国』。状況が分からずもどかしい」。小川さんはため息をつく。

「粘り強く要望」

 米側の対応は鈍い。PFASを含む泡消火剤の使用歴などの情報公開を求める市などの要請に対し、2月には使用歴がないと回答。9月になって「1991~2009年の間に使っていた」と認めた。湯崎英彦知事は11月、米国大使館を訪ね、弾薬庫内の水質、土壌調査を要求。高垣広徳市長も「粘り強く要望を続ける」と強調する。

汚染源巡り相違

 PFASを巡る問題は米軍岩国基地がある岩国市でも表面化した。同基地に隣接する遊水池で市民団体が実施した調査で11月、指針値の約3・5倍の値が検出された。

 8月には米国の平和団体が基地そばの今津川河口で実施した調査で指針値を超えたことが判明していた。市民団体は「汚染源が基地内である可能性は高い」と市へ独自調査を迫った。市は今月4日に基地周辺の川や海で水を採取。調査結果は年内にも出る見通しだ。

 ただ、飲用に使われない遊水池の水は調べていない。市は「排出源を特定する調査ではない」との姿勢で、「汚染源を特定して除去すべきだ」と主張する市民団体とは考えに隔たりがある。

 米軍施設周辺で高濃度のPFASが検出される問題は東京や沖縄でも発生しているが、いずれも汚染源の特定は進んでいない。住民の不安の解消が求められている。(岩井美都、長久豪佑)

(2024年12月20日朝刊掲載)

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