回顧 中国地方2024 <8> ヒロシマ
24年12月25日
式典にイスラエル 波紋
「原爆投下から今日まで無念の死を遂げた34万人のみなさま、ノーベル平和賞をいただいたことをご報告申し上げます」。日本被団協の代表委員を務める広島県被団協の箕牧(みまき)智之理事長(82)が18日、広島市中区の平和記念公園を訪れ、原爆慰霊碑に花を手向けた。居合わせた市民や観光客から、祝福とねぎらいの拍手を送られた。
「二重基準」批判
8月6日に市が営んだ平和記念式典で原爆慰霊碑の石室に原爆死没者名簿が納められ、128冊計34万4306人となった。核兵器の非人道性を証言してきた被爆者たちの歩みが、被団協への平和賞授与という形でたたえられた。ただ、その願いとは裏腹に核を巡る国際情勢は厳しさを増し、式典にも影を落とした。
市はウクライナ侵攻を続けるロシアと同盟国ベラルーシの政府代表の招待を3年連続で見送った一方、イスラエルを例年通り招いた。パレスチナ自治区ガザではイスラエル軍とイスラム組織ハマスによる戦闘で大勢の市民が犠牲になっており、市の姿勢に「二重基準」との批判が沸き起こった。罪のない子どもたちが血を流す姿を79年前の広島の惨状と重ね合わせる被爆者もいた。
箕牧理事長の県被団協ともう一つの県被団協(佐久間邦彦理事長)は本来は全ての国を招くべきだとした上で「ロシアとベラルーシを例外とするならイスラエルも招くべきではない」と反発。市は2025年の式典へ対応を検討している。
物々しさも増す
式典会場の物々しさも増した。市は、23年は慰霊碑周辺だった入場規制エリアを公園全体に広げ、拡声器やプラカードの持ち込みを禁止した。園内への入場口を6カ所に絞り手荷物検査を実施。さらに碑前の参列者席に行くまでに金属探知ゲートを設けたため、入場に時間がかかり、着席できなかったり、諦めて帰ったりする人が出た。
市は23年の式典当日に原爆ドーム周辺でデモ参加者の一部が市職員に体当たりしたとされる事件を受け「再発防止に向けた実効性のある対応」と説明した。結局、デモの主催団体は8月5日夜からドーム前で抗議の座り込み。退去の求めに応じず、警察官や市職員が取り囲み、一触即発の緊張感に包まれた。
松井一実市長は8月21日の記者会見で「式典を円滑に開催できた」と成果を強調。その上で「表現の自由と厳粛な式典をいかに調和させていくか。対策を検討したい」とも述べた。
25年は被爆80年で戦後80年。核兵器も戦争もない世界への道筋をどう描くのか。平和を願い、発信する式典の在り方とは―。被爆地広島の視座が問われる。(野平慧一) =おわり
(2024年12月25日朝刊掲載)