溝浮き彫り 被爆者落胆 被団協面会 核禁会議参加に「ゼロ回答」 首相、核シェルターにも言及
25年1月9日
「肩透かしだった」。日本被団協の役員にとって、石破茂首相に3月の核兵器禁止条約の第3回締約国会議へのオブザーバー参加を直談判した8日の官邸での面会は消化不良に終わった。首相は被爆者たちの意に反して防衛強化の持論を唱え、両者の溝が改めて浮き彫りになった。「収穫はなかった」「期待外れだった」―。おのずと厳しい言葉が並んだ。(宮野史康、樋口浩二、中川雅晴)
面会を終え、報道陣に歩み寄った代表委員の田中熙巳(てるみ)さん(92)。表情はさえず、「首相の独壇場になってしまった」と残念がった。
田中さんが悔やんだのは、首相の発言に対して被団協側が意見する機会がなかったことだ。代表委員の一人、箕牧(みまき)智之さん(82)も「首相は言いっ放しの聞きっ放し」と振り返った。
記念撮影から始まった約30分の面会。「どうぞ前へ」と気さくに声をかける首相とは対照的に被団協の役員たちに笑顔はなく、口元を結んだままだった。2009年以来となる官邸での被団協役員と首相との面会に懸ける強い思いがにじんだ。
首相と田中さんがあいさつの交換を終えると、以後は非公開に。会談は役員7人がそれぞれ発言し、首相が最後にまとめる流れで進んだ。出席者によると、役員たちは一日も早い核廃絶や核兵器禁止条約へのオブザーバー参加、原爆被害への国家補償を口々に求めた。
だが首相は10分ほど持論を語ったものの、肝心の要望への回答を避け続けた。原爆被害への国家補償には「裁判で結論が出ている」とにべもなかったという。核廃絶を「究極の目標」としつつも、安全保障環境の厳しさを強調。核シェルターの整備まで例示し、「国民が核の攻撃を受けても、決して死なない体制をつくるのが政府の仕事」と語った。
首相は就任前後からオブザーバー参加を「選択肢の一つ」とし、参加に消極的だった従来の政府とは異なる見解を示してきた。ただ政権内には面会前から「基本的な考えは前政権から変わっていいない」(外務省幹部)との本音も見え隠れしていた。
被団協側には、首相が禁止条約という言葉さえ発しない結末に落胆が広がった。被団協事務局次長の児玉三智子さん(86)は「ここまで期待外れになるとは」とあぜんとした。
田中さんは被団協の見解を文書にして政府に提出し、再び面会するよう首相に求める考えでいる。被爆者運動は世界の注目が高まる今が正念場だとし、「政府にも首相にも注文を付けながら、しつこく面会を申し入れて議論していきたい」と前を向いた。
田中熙巳さん一問一答
石破首相との面会を終えた日本被団協代表委員の田中熙巳さんと報道陣との主なやりとりは次の通り。
―面会した受け止めを教えてください。
役員がそれぞれ発言はしたが、首相の独壇場のようになってしまった。首相が防衛、安全保障の考え方を話し、反論する時間はなかった。収穫があったとは受け止めていない。残念だ。
―首相は核抑止が必要という主張でしたか。
日本の周りに中国、ロシア、北朝鮮があり、非常に厳しい環境に置かれている、と。各国と交渉するのではなく軍備をしていくという考え方。被団協とは全く違う。
―具体的に何を求めましたか。
絶対に核兵器を使わせてはいけないという一貫した主張だ。「黒い雨」の被害者や被爆体験者にきちんと配慮してほしいという要望も出た。
―政府への期待は。
核兵器禁止条約の締約国会議も本当は(オブザーバー)参加するだけではだめ。日本政府は核廃絶のリーダーシップを取らないといけない。
―首相と改めて面会する考えはありますか。
最後に申し入れたが、首相は何も言わなかった。重要な議論なので中途半端にはできない。世界が被爆者の運動に注目している。このまま放っておくわけにいかない。
(2025年1月9日朝刊掲載)
面会を終え、報道陣に歩み寄った代表委員の田中熙巳(てるみ)さん(92)。表情はさえず、「首相の独壇場になってしまった」と残念がった。
田中さんが悔やんだのは、首相の発言に対して被団協側が意見する機会がなかったことだ。代表委員の一人、箕牧(みまき)智之さん(82)も「首相は言いっ放しの聞きっ放し」と振り返った。
記念撮影から始まった約30分の面会。「どうぞ前へ」と気さくに声をかける首相とは対照的に被団協の役員たちに笑顔はなく、口元を結んだままだった。2009年以来となる官邸での被団協役員と首相との面会に懸ける強い思いがにじんだ。
首相と田中さんがあいさつの交換を終えると、以後は非公開に。会談は役員7人がそれぞれ発言し、首相が最後にまとめる流れで進んだ。出席者によると、役員たちは一日も早い核廃絶や核兵器禁止条約へのオブザーバー参加、原爆被害への国家補償を口々に求めた。
だが首相は10分ほど持論を語ったものの、肝心の要望への回答を避け続けた。原爆被害への国家補償には「裁判で結論が出ている」とにべもなかったという。核廃絶を「究極の目標」としつつも、安全保障環境の厳しさを強調。核シェルターの整備まで例示し、「国民が核の攻撃を受けても、決して死なない体制をつくるのが政府の仕事」と語った。
首相は就任前後からオブザーバー参加を「選択肢の一つ」とし、参加に消極的だった従来の政府とは異なる見解を示してきた。ただ政権内には面会前から「基本的な考えは前政権から変わっていいない」(外務省幹部)との本音も見え隠れしていた。
被団協側には、首相が禁止条約という言葉さえ発しない結末に落胆が広がった。被団協事務局次長の児玉三智子さん(86)は「ここまで期待外れになるとは」とあぜんとした。
田中さんは被団協の見解を文書にして政府に提出し、再び面会するよう首相に求める考えでいる。被爆者運動は世界の注目が高まる今が正念場だとし、「政府にも首相にも注文を付けながら、しつこく面会を申し入れて議論していきたい」と前を向いた。
世界が注目 このまま放っておけぬ
田中熙巳さん一問一答
石破首相との面会を終えた日本被団協代表委員の田中熙巳さんと報道陣との主なやりとりは次の通り。
―面会した受け止めを教えてください。
役員がそれぞれ発言はしたが、首相の独壇場のようになってしまった。首相が防衛、安全保障の考え方を話し、反論する時間はなかった。収穫があったとは受け止めていない。残念だ。
―首相は核抑止が必要という主張でしたか。
日本の周りに中国、ロシア、北朝鮮があり、非常に厳しい環境に置かれている、と。各国と交渉するのではなく軍備をしていくという考え方。被団協とは全く違う。
―具体的に何を求めましたか。
絶対に核兵器を使わせてはいけないという一貫した主張だ。「黒い雨」の被害者や被爆体験者にきちんと配慮してほしいという要望も出た。
―政府への期待は。
核兵器禁止条約の締約国会議も本当は(オブザーバー)参加するだけではだめ。日本政府は核廃絶のリーダーシップを取らないといけない。
―首相と改めて面会する考えはありますか。
最後に申し入れたが、首相は何も言わなかった。重要な議論なので中途半端にはできない。世界が被爆者の運動に注目している。このまま放っておくわけにいかない。
(2025年1月9日朝刊掲載)