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社説・コラム

[知っとる? ヒロシマ調べ隊] 一瞬で奪われた「命」表現

Q 原爆の熱線で「人間が蒸発した」って本当?

 上空でさく裂した原爆は、強烈な熱線、爆風、放射線を発しました。「広島・長崎の原爆災害」(1979年)では、爆心地の地表面の温度は3千~4千度に達したと推定されています。想像を絶する高熱ですが、専門家によると、人体は有機物のため、強い熱線を浴びても骨や炭化した組織は残り、蒸発して消えるということはないそうです。

 焦土と化した広島では、遺骨すら見つからなかった人がたくさんいます。そうした状況から、原爆で人間が「蒸発した」という表現が生まれたのかもしれません。

 原爆資料館(広島市中区)本館には、部分的に黒くなった「人影の石」と呼ばれる石段が展示されています。爆心地から約260メートルにあった旧住友銀行広島支店(現三井住友銀行広島支店)入り口の階段の一部です。被爆から80年近く経過した今も残る「影」は来館者に強烈な印象を与えます。

 資料館によると、原爆の強烈な熱線によって石の表面が白っぽく変色し、人が腰掛けていた部分が黒くなって残ったそうです。後の調査で、影のように見える部分に有機物質が付着していることが分かっています。

 戦後に「この石段で亡くなったのは家族かもしれない」という申し出が何件か寄せられたそうですが、結局特定はできていません。この「影」も「蒸発した」という表現も、一瞬にして命を奪われた多くの犠牲者がいたことを伝えています。(新山京子)

(2025年1月13日朝刊掲載)

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