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「伝承活動していく最後の機会」 山口の被爆者 永野さん オスロで思い強く

 ノルウェー・オスロで昨年12月にあった日本被団協へのノーベル平和賞授賞式に合わせ現地を訪れた山口市原爆被害者の会の会長・永野和代さん(80)は、今年を世界平和を少しでも手繰り寄せる一年にしたいと決意を新たにしている。「原爆被害への世界の関心は高くない。忘れられないうちに今、動かないといけない」。市原爆被害者の会の活動への参加を幅広く呼びかける考えでいる。

 1歳の時に広島で被爆した永野さんは「授賞式で被団協の方々が、どういう顔でどんな喜び方をされるか見てみたい」と、日本原水協と非政府組織(NGO)ピースボート(東京)が企画した現地訪問に私費で参加。授賞式は、他の被爆者たちとパブリックビューイング(PV)で見届けた。

 授賞式で演説した日本被団協の田中熙巳(てるみ)代表委員が、原爆被害の国家補償がなされていないと訴えたことが心に残ったという。「国に補償を求めていくことが戦争を起こす力を半減させ、引きとどめる力になる。私の考えと同じ」とうなずく。

 渡航前には、現地で原爆被害へ関心が高まっているのではないかと期待していたが、それを感じることはできなかった。日本の高校生平和大使や被爆者と、現地の高校生との顔合わせ会では生徒の反応は薄く、現地の先生から「私たちにできることは何かあるか」との問いかけがあっただけだった。

 現地では、2011年に発生した東京電力福島第1原発事故については知られているが、原爆被害の実態への関心は低かった。全国の被爆者の平均年齢は85歳を超える。永野さんは「被爆80年を前に日本被団協がノーベル平和賞を受賞した。体験を伝える最後の機会」と力を込める。

 山口市原爆被害者の会のメンバーは、被爆者や被爆2世たち45人。高齢化が進み、原爆被害などを話す伝承活動を担える人は1割くらいになっている。永野さんは、高校の生徒会などに伝承活動などへの参加を呼びかけて輪を広げることができないかと考えている。「原爆の恐ろしさについて話し、鶴を折ってもらいながら交流することができたらいい」と望む。

 また同会は、山口市で4月13~20日に開く原爆展で、被爆体験を伝える紙芝居の読み手を会員以外から募ることを決めた。山口市原爆被害者の会事務局☎080(1913)1070。(江頭香暖)

(2025年1月17日朝刊掲載)

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