[A Book for Peace 森田裕美 この一冊] 「カクテル・パーティー」 大城立裕著(岩波現代文庫)
25年1月20日
「親善」が覆い隠す矛盾突く
大城立裕さんが沖縄の作家として初めて1967年に芥川賞を受けた本作は、米占領下の沖縄を舞台に、「親善」の名の下、不可視化された矛盾や痛みを突く。
主人公は役所勤めの沖縄人。米軍基地内でのカクテル・パーティーに招かれ、主催の米国人、日本人新聞記者、中国人弁護士らと琉球文化や歴史、政治談議に花を咲かせる。互いにとって不都合な戦争や占領の話題を注意深く避けながら…。
その頃、主人公の娘に事件が起きる。岬で米兵にレイプされた娘は、その米兵を崖下に突き落としけがをさせたとして逮捕される。そこから、主人公たちの「親善」のベールが剝がれていく。
主人公はパーティーを共にした米国人に助けを求めるが、占領者と被占領者という非対称な力関係が立ちはだかる。頼りの中国人弁護士には、旧日本軍による妻への残虐行為を打ち明けられる。中国戦線に赴いた過去を持つ主人公は自らを省みる。そして、互いに「不都合」を覆い隠すことで成り立つ「親善」の欺瞞(ぎまん)を暴く。
本書には、95年から当時を振り返る構成の戯曲版も収まる。著者にこれを書かせたのは、米国の原爆観をあらわにした95年の「スミソニアン論争」だったという。
戯曲版で、主人公は米国人から「真珠湾と原爆とを、同時に恕(ゆる)せばよい」のかと問われ、こう返す。「違うのだ。どちらへも同じように抗議することを考えているのだ。どちらも被害者であると同時に、加害者だということを自覚することからしか、新しい世紀ははじまらない」
過ちへの怒りや責任をうやむやにした「親善」で、問題の本質を覆い隠していないか。現代に重なる戒めとして読める。
これも!
①岩瀬成子著「ピース・ヴィレッジ」(偕成社)
②小手鞠るい著「ある晴れた夏の朝」(同)
(2025年1月20日朝刊掲載)