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社説・コラム

天風録 『ウィーン・アピール70年』

 世界で最も集まった署名かもしれない。70年前のきょう出された核戦争に反対する「ウィーン・アピール」への賛同である。その数7億筆。うねりを生み出したのは東京都杉並区の、ごく普通の女性たちだった▲前年起きた米水爆実験による第五福竜丸の被曝(ひばく)を受けて、いち早く原水爆禁止の署名集めに立ち上がる。風評被害に苦しむ鮮魚商の妻の叫びを「魚屋さんだけでなく、全人類の問題である」と位置付けた先見性を思う▲区議会の水爆実験禁止決議も追い風に、署名運動は全国へと広がる。当時の英知が集う世界平和評議会に招かれた代表者が熱意と危機感を伝え、アピール賛同署名と広島での第1回原水爆禁止世界大会開催につながった▲70年を経て今、日本被団協のノーベル平和賞受賞で、政府に核兵器禁止条約参加を迫る署名活動や地方議会の意見書提出が高まりを見せる。だが広島県議会が自民党の反対で水を差す。核廃絶のためと昨夏、税金で欧州訪問団を派遣したはずなのに▲先日、広島、長崎両市長にオブザーバー参加を要請された石破茂首相は態度を保留したらしいが、決断を求める。核なき世界へのうねりを被爆国から再び生み出す。その一歩の。

(2025年1月19日朝刊掲載)

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