社説 ガザ停戦合意 中東の平和につなげたい
25年1月18日
憎しみと報復の負の連鎖を断ち切る節目となることを期待する。15カ月を超える戦闘が続いたパレスチナ自治区ガザを巡り、イスラエルとイスラム組織ハマスが恒久停戦に向けた合意にこぎ着けた。なぜ早く歩み寄れなかったのかと悔やまれてならない。
ハマスが長年圧迫されてきたイスラエルを奇襲して約1200人を殺害し、今も約100人を人質とする。報復としてイスラエルは市民を巻き添えにした国際人道法に明らかに反する攻撃を続け、4万6千人以上が犠牲になった上にガザ住民の9割以上が避難に追い込まれた。医薬品や食糧の不足は深刻と聞く。
特にガザの人たちは合意に光を見いだしていよう。何より人道危機の解消を最優先とするよう両者に求めたい。
合意はパレスチナ側にも配慮したように見える。第1段階の6週間では戦闘を休止した上でハマスが女性、高齢者ら33人の人質を解放し、イスラエルは拘束中のパレスチナ人数百人を釈放する。ガザの人口密集地からのイスラエル軍撤収や、人道支援の拡大、住民の帰還も約束された。
それらが履行されれば次に追加の人質解放とイスラエルの完全撤退を経て、ガザ復興を本格化させるシナリオだ。しかし合意通り第1段階が着手されるかも含め、先行きには懐疑的な見方もある。
ガラス細工のような危うさを抱えるからだ。激しさを増したイスラエル軍の攻撃で、共闘する他国の武装勢力とともに弱体化したハマスは孤立しつつあった。これに対し、自国の強硬派勢力を背に停戦には後ろ向きだったイスラエルのネタニヤフ首相が一転、矛を収めたのは人道危機の反省などからではない。来週、米大統領に返り咲くトランプ氏の想定外の圧力に応じたというのが現実だろう。
停戦仲介に入った米国やイスラエルと敵対関係を強めるイランをはじめ、もとよりガザの問題は他国の打算が絡み合う。事態の長期化で中東全体が不安定になったのも、そのためだ。イスラエルは事実上の核保有国であり、状況次第でイランに核攻撃を行う恐れを懸念する声もある。中東全体に「核保有ドミノ」を招く火種にもなりかねない。
だからこそ合意が着実に履行され、後戻りしないよう国際社会を挙げて監視を強めたい。その上でパレスチナ問題の根本解決を視野に入れるのは当然だろう。つまるところ「2国家共存」である。
ただ、この合意を自らの功績とするトランプ氏は、1期目からイスラエル寄りが鮮明だった。「力による平和」を唱え、今後ともパレスチナへの圧力強化を念頭に置くとみていい。例えば国際法に違反するヨルダン川西岸地区へのユダヤ人入植などを後押ししてくる可能性もある。
日本の役割も大きい。中東では中立国のはずなのに、ガザ問題の解決に貢献したとは思えない。危機に直面する人たちへの人道支援は言うまでもない。加えてパレスチナ側の人権を軽んじないようイスラエルや米国に強く働きかける外交力も求められる。
(2025年1月18日朝刊掲載)
ハマスが長年圧迫されてきたイスラエルを奇襲して約1200人を殺害し、今も約100人を人質とする。報復としてイスラエルは市民を巻き添えにした国際人道法に明らかに反する攻撃を続け、4万6千人以上が犠牲になった上にガザ住民の9割以上が避難に追い込まれた。医薬品や食糧の不足は深刻と聞く。
特にガザの人たちは合意に光を見いだしていよう。何より人道危機の解消を最優先とするよう両者に求めたい。
合意はパレスチナ側にも配慮したように見える。第1段階の6週間では戦闘を休止した上でハマスが女性、高齢者ら33人の人質を解放し、イスラエルは拘束中のパレスチナ人数百人を釈放する。ガザの人口密集地からのイスラエル軍撤収や、人道支援の拡大、住民の帰還も約束された。
それらが履行されれば次に追加の人質解放とイスラエルの完全撤退を経て、ガザ復興を本格化させるシナリオだ。しかし合意通り第1段階が着手されるかも含め、先行きには懐疑的な見方もある。
ガラス細工のような危うさを抱えるからだ。激しさを増したイスラエル軍の攻撃で、共闘する他国の武装勢力とともに弱体化したハマスは孤立しつつあった。これに対し、自国の強硬派勢力を背に停戦には後ろ向きだったイスラエルのネタニヤフ首相が一転、矛を収めたのは人道危機の反省などからではない。来週、米大統領に返り咲くトランプ氏の想定外の圧力に応じたというのが現実だろう。
停戦仲介に入った米国やイスラエルと敵対関係を強めるイランをはじめ、もとよりガザの問題は他国の打算が絡み合う。事態の長期化で中東全体が不安定になったのも、そのためだ。イスラエルは事実上の核保有国であり、状況次第でイランに核攻撃を行う恐れを懸念する声もある。中東全体に「核保有ドミノ」を招く火種にもなりかねない。
だからこそ合意が着実に履行され、後戻りしないよう国際社会を挙げて監視を強めたい。その上でパレスチナ問題の根本解決を視野に入れるのは当然だろう。つまるところ「2国家共存」である。
ただ、この合意を自らの功績とするトランプ氏は、1期目からイスラエル寄りが鮮明だった。「力による平和」を唱え、今後ともパレスチナへの圧力強化を念頭に置くとみていい。例えば国際法に違反するヨルダン川西岸地区へのユダヤ人入植などを後押ししてくる可能性もある。
日本の役割も大きい。中東では中立国のはずなのに、ガザ問題の解決に貢献したとは思えない。危機に直面する人たちへの人道支援は言うまでもない。加えてパレスチナ側の人権を軽んじないようイスラエルや米国に強く働きかける外交力も求められる。
(2025年1月18日朝刊掲載)