天風録 『明けまして、ありがとう』
25年1月18日
1月1日は、お正月気分になれない。この先はもう、「明けまして、おめでとう」なんて言えない―。昨年の大みそか、能登半島地震の被災地石川県の北國(ほっこく)新聞に60代女性の投書が載った▲震災で家が崩れ、下敷きになった。命からがら救われたものの、折あしく訪ねてくれていた友達が命を落としたらしい。「あの時、ああしていれば…」と後悔の念にさいなまれているのだろうか。新年の祝日が、悲しい追悼の日に変わってしまった▲こちらは、どんな日として刻まれるだろう。パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエルとの間でおととい、停戦が合意に達した▲遅過ぎる合意だろう。ハマスに捕らわれた人質やイスラエルで帰りを待つ家族にとって。1年以上、爆撃の恐怖にさらされ続けたガザの子どもたちや家族にとっても。ユニセフによれば、ガザでは子どもの犠牲者が少なくとも1万4500人に上る▲冒頭の投書の主が、せめて救助してくれた人々には届けたいと考えたのが「明けまして、ありがとう」。感謝の声が戦災地ガザからも聞こえてくるよう、人道支援が急がれる。合意が揺らぎ、「ぬか喜びの日」と成り果てる前に。
(2025年1月18日朝刊掲載)
(2025年1月18日朝刊掲載)