社説 第2次トランプ政権発足 核なき世界を「常識」に
25年1月22日
米国の広島、長崎への原爆投下から80年。節目の年の始まりに、米国第一主義を掲げるトランプ氏が第47代大統領に就いた。4年ぶりとなる。
世界には今も1万2千超の核弾頭があり、実戦使用こそされないが核による脅しが続く。トランプ氏の復権で核リスクが高まるようなことがあってはならない。
トランプ氏は就任演説で核政策に触れなかったが、軍事力による平和の実現に意欲を見せた。「常識の革命が始まる」と既存の価値観の刷新も力強く訴えた。ならば80年もの間、国際平和に核兵器が必要だとしてきた保有国の「常識」も改めるべき時だろう。
前回就任した2017年、お膝元のニューヨーク国連本部で核兵器禁止条約が採択された。米政府としても、前のオバマ政権まで核戦力削減を基本方針に掲げてきた。これを「核戦力で他国に劣るわけにはいかない」と大胆に転換したのがトランプ氏だった。
爆発力が低く「使える核兵器」と称される小型核や、海洋発射型の核巡航ミサイルの開発に踏み切った。「力による平和」を追い求めた結果である。イランの核合意を一方的に離脱した点を取っても、核の超大国としての自覚と責任感に欠けていたと言わざるを得ない。
「核兵器のない世界」を掲げたオバマ政権へのアンチテーゼとも取れる路線は、ロシアとの関係にも禍根を残した。射程500~5500キロのミサイル全廃に向けた中距離核戦力(INF)廃棄条約を19年に廃棄。戦略核弾頭を減らす新戦略兵器削減条約(新START)の延長を拒み続けたのも記憶に新しい。
いずれも中国に対抗するためだった。バイデン政権で核政策は修正されたが、超大国の不安定な姿勢がロシアのウクライナ侵攻など世界情勢の混迷を招いたのは否めまい。
前回の在任中には3度の臨界前核実験に踏み切った。オバマ、バイデン政権下でも繰り返したのを見ると、米国の核戦略に組み込まれているのだろう。万が一にも核爆発を伴う核実験にエスカレートしないよう、日本や国際社会は監視を強めねばならない。
北朝鮮の核開発への対応も懸念される。トランプ氏はきのう、記者団の前で北朝鮮を「核保有国」と表現し、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記との友好な関係をアピールした。
歴代の米政権は北朝鮮の核保有を認めず、非核化を目標に掲げてきたはずだ。発言の真意は不明だが、核政策を軽々しくディール(取引)にするような姿勢は許されない。
2度目の就任で、政権内にトランプ氏をいさめる存在が見当たらないのも気がかりだ。予測不能で型破りな大統領だが、核問題に関しては暴走は許されない。「核のボタン」に指をかけていることを、自他共に改めて肝に銘じてもらいたい。
オバマ、バイデンの両氏は現職大統領として広島を訪問した。トランプ氏もぜひ続いてほしい。平和記念公園に花を手向け、被爆者の生の声に耳を傾けて、あの日の業火を想像するべきだ。
(2025年1月22日朝刊掲載)
世界には今も1万2千超の核弾頭があり、実戦使用こそされないが核による脅しが続く。トランプ氏の復権で核リスクが高まるようなことがあってはならない。
トランプ氏は就任演説で核政策に触れなかったが、軍事力による平和の実現に意欲を見せた。「常識の革命が始まる」と既存の価値観の刷新も力強く訴えた。ならば80年もの間、国際平和に核兵器が必要だとしてきた保有国の「常識」も改めるべき時だろう。
前回就任した2017年、お膝元のニューヨーク国連本部で核兵器禁止条約が採択された。米政府としても、前のオバマ政権まで核戦力削減を基本方針に掲げてきた。これを「核戦力で他国に劣るわけにはいかない」と大胆に転換したのがトランプ氏だった。
爆発力が低く「使える核兵器」と称される小型核や、海洋発射型の核巡航ミサイルの開発に踏み切った。「力による平和」を追い求めた結果である。イランの核合意を一方的に離脱した点を取っても、核の超大国としての自覚と責任感に欠けていたと言わざるを得ない。
「核兵器のない世界」を掲げたオバマ政権へのアンチテーゼとも取れる路線は、ロシアとの関係にも禍根を残した。射程500~5500キロのミサイル全廃に向けた中距離核戦力(INF)廃棄条約を19年に廃棄。戦略核弾頭を減らす新戦略兵器削減条約(新START)の延長を拒み続けたのも記憶に新しい。
いずれも中国に対抗するためだった。バイデン政権で核政策は修正されたが、超大国の不安定な姿勢がロシアのウクライナ侵攻など世界情勢の混迷を招いたのは否めまい。
前回の在任中には3度の臨界前核実験に踏み切った。オバマ、バイデン政権下でも繰り返したのを見ると、米国の核戦略に組み込まれているのだろう。万が一にも核爆発を伴う核実験にエスカレートしないよう、日本や国際社会は監視を強めねばならない。
北朝鮮の核開発への対応も懸念される。トランプ氏はきのう、記者団の前で北朝鮮を「核保有国」と表現し、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記との友好な関係をアピールした。
歴代の米政権は北朝鮮の核保有を認めず、非核化を目標に掲げてきたはずだ。発言の真意は不明だが、核政策を軽々しくディール(取引)にするような姿勢は許されない。
2度目の就任で、政権内にトランプ氏をいさめる存在が見当たらないのも気がかりだ。予測不能で型破りな大統領だが、核問題に関しては暴走は許されない。「核のボタン」に指をかけていることを、自他共に改めて肝に銘じてもらいたい。
オバマ、バイデンの両氏は現職大統領として広島を訪問した。トランプ氏もぜひ続いてほしい。平和記念公園に花を手向け、被爆者の生の声に耳を傾けて、あの日の業火を想像するべきだ。
(2025年1月22日朝刊掲載)