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[ヒロシマの空白 街並み再現] パノラマ 市中心部を一望 「原爆ドーム」 半球形の屋根も

 広島市中心部を一望する古いパノラマ写真。左手を流れる元安川沿いには広島県立商品陳列所(現原爆ドーム)の半球形の屋根が見える。木造家屋がひしめくさまも、よく分かる。

 千田町(現中区)に校舎を構えていた広島高等工業学校(現広島大工学部)の1928年卒業アルバムの中の一枚だ。撮影は昭和初期で、現在のNHK広島放送局辺りにあった不動貯金銀行広島支店からのアングルと推測される。ただ、写真左手前の鳥居はコラージュで、実際には立っていない。

 陸軍の西練兵場などがあった基町一帯の方角を望むパノラマ写真は珍しいという。軍事施設を望む構図の撮影は、37年の日中戦争開始を経て「軍事機密」として規制が厳格になったためだ。原爆資料館の落葉裕信学芸係長は「その前の時代だからこそ撮影できた貴重な写真」と語る。

 31年の満州事変に先立つ時期のアルバムは、戦時色がさらに濃くなっていく前の街の姿を今に伝える。授業や部活動の写真とともに、外国映画を上映した東新天地(現中区)の映画館「天使館」や「春のマーケット」を開催中の県立商品陳列所のカットもある。

 持ち主は甲斐晴人さん=91年に84歳で死去。写真が捉えた市中心部は壊滅したが、三篠本町(現西区)の自宅は原爆による焼失を免れた。甲斐さん自身は、わが子の疎開先だった帝釈村(現庄原市)から広島に戻る途中だった。その後市内に入った。

 現在、長男の稔人さん(83)=安佐南区=がアルバムを保管する。「広島で多くの死体や水を求める人を見た父は、『戦争は絶対にしちゃいけん』と言っていた。この言葉を次世代につないでいきたい」 (小林可奈)

(2025年1月27日朝刊掲載)

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