天風録 『アウシュビッツ解放80年』
25年1月27日
侵入を阻む電気柵を戦車がなぎ倒して進む。施設に入ったソ連兵は、あちこちで白骨を目撃したという。80年前のきょう解放されたアウシュビッツ強制収容所。ナチス・ドイツによるユダヤ人大虐殺の舞台となり、主にガス室で100万を超す人が命まで奪われた▲当時の収容所の様子を解放を手伝ったソ連兵が証言している。「人々はよろよろとバラックから出てきて、遺体の間に座り込み横たわった。悲惨だった」▲解放時に残されていたのは痩せ衰えた人だけ。6万に上る囚人のほとんどは、ソ連軍接近で慌てて撤退を始めたドイツ兵に無理やり連れて行かれていた。飢えや寒さで歩けなくなると、容赦なく銃口が向けられた▲ファシズム国家ドイツを打倒しようと、ソ連と米国、英国が手を結んでいた時代。今や様変わりした。ソ連を継いだロシアは近年、収容所跡地での追悼式典から排除され続ける。ウクライナ侵攻が溝を深めてしまった▲民族やジェンダーの違いを言い募り、力をひけらかして異論を抑圧したナチスのやり方は、長くは持たなかった。差異より共通点を見つけて大事にする―。惨劇を繰り返さぬため、人類がなお学び足りない重い教訓である。
(2025年1月27日朝刊掲載)
(2025年1月27日朝刊掲載)