どうなる米核政策 核抑止強化の見方も トランプ氏 中露と協議意欲
25年1月26日
4年ぶりに返り咲いたトランプ米大統領による核政策の行方を日本の政府関係者たちが注視している。24日には中国、ロシアとの核軍縮協議への意欲を表明した。ただ、前任期中には核軍縮を後退させる言動も繰り返した。信条とする「力による平和」に基づき、核抑止を強めるとの見方も強い。(宮野史康)
トランプ氏はオンライン参加した24日の世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)で米中関係の展望を問われ、核軍縮に言及。「プーチン大統領も核軍縮の考えを非常に気に入っていた」とし、米中ロの「非核化は可能」と踏み込んだ。
だが第1次政権時の2018年には、イランが核開発を制限する見返りに欧米が制裁を解除する核合意から一方的に離脱した。翌19年には、ロシアとの中距離核戦力(INF)廃棄条約から離脱。核弾頭の運搬手段ともなる中距離ミサイルの開発を本格化させた。
日本政府内では「核兵器のない世界」を掲げたバイデン前大統領に比べ、核軍縮を後退させると見る向きが大勢だ。22日には米ロサンゼルスの山火事を巡って「まるで核兵器が爆発したようだ」と発言。外務省幹部は「先入観を持たずに向き合っていくしかない」と漏らす。
核兵器禁止条約を巡り17年には日本へ不参加を働きかけた。18年には新たな核戦略指針「核体制の見直し」(NPR)で小型核兵器の開発を表明。バイデン氏も推進した臨界前核実験を加速させるとの指摘もある。核開発に注力する北朝鮮との向き合い方や26年2月に失効する米ロの核軍縮合意「新戦略兵器削減条約(新START)」も懸案になり得る。
一般社団法人「核兵器をなくす日本キャンペーン」(東京)の浅野英男さん(28)は「核兵器が使われた場合の非人道的な結末を認識し、核廃絶に向け責任あるリーダーシップを発揮してほしい」と話す。
新たな保有国に懸念
一橋大大学院の秋山信将教授(軍備管理・軍縮)の話 トランプ氏は軍事的にも経済的にもパワーを追求するだろう。ロシアが核兵器への依存を深め、中国も核大国の道を歩めば、米国は核弾頭やミサイルを増やすかもしれない。大国間の軍拡競争は国際的な核軍縮を阻害する恐れがある。
他方で、大国との取引で平和を実現することが自身の名声や国の威信を高めると考えれば、核の軍備管理に取り組む可能性もある。
北朝鮮の非核化を諦め、核抑止と危機管理に比重を置くシナリオも考えられる。そうなれば、核不拡散体制にほころびが出て、新たに核保有を考える国が増えかねない。核軍縮が停滞すれば、核兵器禁止条約に参加する非保有国の不満が募り、保有国との分断が深まる懸念がある。
軍縮さらなる逆境に
長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)の中村桂子准教授(核軍縮)の話 トランプ氏から核軍縮への関心はうかがえない。米国第一主義の下、核抑止力を強めて戦争を防ごうとする第1次政権の路線は変わらないのではないか。「使える核兵器」の開発を進め、爆発を伴う核実験の再開に踏み出す可能性も否定できない。核軍縮はさらなる逆境に向かう。
核拡散防止条約(NPT)の成果は米国の動向に左右される。ただでさえ危機的な状況。2026年の再検討会議への先行きは不透明になった。
政府は米国に振り回されることなく多国間協調の意義を訴え、核軍縮を進めるべきだ。トランプ支持者が皆、核戦力の拡大を支持しているわけではない。市民社会は核兵器の非人道性や危険性を発信する必要がある。
(2025年1月26日朝刊掲載)
トランプ氏はオンライン参加した24日の世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)で米中関係の展望を問われ、核軍縮に言及。「プーチン大統領も核軍縮の考えを非常に気に入っていた」とし、米中ロの「非核化は可能」と踏み込んだ。
だが第1次政権時の2018年には、イランが核開発を制限する見返りに欧米が制裁を解除する核合意から一方的に離脱した。翌19年には、ロシアとの中距離核戦力(INF)廃棄条約から離脱。核弾頭の運搬手段ともなる中距離ミサイルの開発を本格化させた。
日本政府内では「核兵器のない世界」を掲げたバイデン前大統領に比べ、核軍縮を後退させると見る向きが大勢だ。22日には米ロサンゼルスの山火事を巡って「まるで核兵器が爆発したようだ」と発言。外務省幹部は「先入観を持たずに向き合っていくしかない」と漏らす。
核兵器禁止条約を巡り17年には日本へ不参加を働きかけた。18年には新たな核戦略指針「核体制の見直し」(NPR)で小型核兵器の開発を表明。バイデン氏も推進した臨界前核実験を加速させるとの指摘もある。核開発に注力する北朝鮮との向き合い方や26年2月に失効する米ロの核軍縮合意「新戦略兵器削減条約(新START)」も懸案になり得る。
一般社団法人「核兵器をなくす日本キャンペーン」(東京)の浅野英男さん(28)は「核兵器が使われた場合の非人道的な結末を認識し、核廃絶に向け責任あるリーダーシップを発揮してほしい」と話す。
新たな保有国に懸念
一橋大大学院の秋山信将教授(軍備管理・軍縮)の話 トランプ氏は軍事的にも経済的にもパワーを追求するだろう。ロシアが核兵器への依存を深め、中国も核大国の道を歩めば、米国は核弾頭やミサイルを増やすかもしれない。大国間の軍拡競争は国際的な核軍縮を阻害する恐れがある。
他方で、大国との取引で平和を実現することが自身の名声や国の威信を高めると考えれば、核の軍備管理に取り組む可能性もある。
北朝鮮の非核化を諦め、核抑止と危機管理に比重を置くシナリオも考えられる。そうなれば、核不拡散体制にほころびが出て、新たに核保有を考える国が増えかねない。核軍縮が停滞すれば、核兵器禁止条約に参加する非保有国の不満が募り、保有国との分断が深まる懸念がある。
軍縮さらなる逆境に
長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)の中村桂子准教授(核軍縮)の話 トランプ氏から核軍縮への関心はうかがえない。米国第一主義の下、核抑止力を強めて戦争を防ごうとする第1次政権の路線は変わらないのではないか。「使える核兵器」の開発を進め、爆発を伴う核実験の再開に踏み出す可能性も否定できない。核軍縮はさらなる逆境に向かう。
核拡散防止条約(NPT)の成果は米国の動向に左右される。ただでさえ危機的な状況。2026年の再検討会議への先行きは不透明になった。
政府は米国に振り回されることなく多国間協調の意義を訴え、核軍縮を進めるべきだ。トランプ支持者が皆、核戦力の拡大を支持しているわけではない。市民社会は核兵器の非人道性や危険性を発信する必要がある。
(2025年1月26日朝刊掲載)