×

社説・コラム

社説 核禁条約会議参加見送り いつまで背を向けるのか

 3月に米ニューヨークで開かれる核兵器禁止条約の第3回締約国会議を巡り、政府がオブザーバー参加を見送る方向で調整に入ったという。

 日本周辺の安全保障環境が厳しさを増す中、米国の「核の傘」に抑止力を依存する現状を踏まえた対応が必要だとの判断らしい。実際は米国の顔色をうかがった結果ではないのか。

 日本被団協のノーベル平和賞受賞は核兵器廃絶への取り組みを国際社会に促すとともに、その先頭に日本が立つよう迫る意味がある。被爆者の願いから生まれた条約に、いつまで背を向けるつもりなのか。被爆国の自覚を著しく欠く判断であり、強く非難する。

 核兵器の開発や使用、威嚇を禁じた核兵器禁止条約は2021年に発効した。昨年9月時点で73の国・地域が批准する。核保有国は参加していない。締約国会議は批准国でなくてもオブザーバー参加は可能だ。条約上の義務は負わず、意思決定にも加わらないが、希望すれば発言できる。

 石破茂首相は昨年9月の自民党総裁選で、オブザーバー参加を「選択肢の一つ」と発言。同時期に決まった被団協の平和賞受賞も背景にあったのだろう。首相就任後も「真剣に考える」と、従来の政権と異なるスタンスを示した。

 首相は、日本と同じく米国に安全保障を頼む北大西洋条約機構(NATO)加盟国でオブザーバー参加してきたドイツなどの事例を検証し判断するとした。ドイツは会議で核抑止を支持する立場を示す一方、核軍縮や核実験の被害者救済に向け締約国と協力する姿勢を打ち出している。日本はなぜ参加できないのか。

 今年に入り被団協の田中熙巳(てるみ)代表委員や広島市の松井一実市長、公明党の斉藤鉄夫代表らが首相と相次いで面会し決断を求めた。ところが徐々に首相の歯切れが悪くなる。核を保有するロシアや中国、北朝鮮の動向に触れて、核抑止の必要性を訴えていた。

 やはり、2月前半と見込まれるトランプ米大統領との初の首脳会談を控え、米国を刺激して信頼関係を損なうのは得策ではない、との判断に傾いたのだろうか。

 そのトランプ氏は先日、米中ロ3カ国の枠組みで核軍縮協議を進めることに意欲を示した。「非核化が可能かどうか確かめたい」とも踏み込んだ。1期目は「核兵器のない世界」などどこ吹く風だっただけに驚きである。

 具体的な構想や行動を見極める必要はあるが、日本はその動きを後押しし、核保有国と非保有国の橋渡し役を果たすため核兵器禁止条約にオブザーバー参加すると、トランプ氏に伝えるべきだ。

 衆院選で野党を中心にオブザーバー参加や署名・批准を求める勢力が急伸した。ならば安全保障と核廃絶の取り組みを両立させる道を国会でも真剣に探ってもらいたい。

 核を巡る世界の分断を食い止めるのは、その恐ろしさを知る被爆国の責任でもある。米国が広島、長崎に原爆を投下して80年。その節目も日本は傍観者のままでいるのか。首相に再考を強く求める。

(2025年1月26日朝刊掲載)

年別アーカイブ