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連載・特集

広島と映画 <7> 中国放送アナウンサー・映画監督 横山雄二さん 「太陽を盗んだ男」 監督 長谷川和彦(1979年公開)

「加害と被害」 強烈なる風刺

 1976年公開のデビュー作「青春の殺人者」がいきなりキネマ旬報のベストテン1位に輝き、日本映画界に「天才現る」と言わしめた長谷川和彦監督が発表した第2作。主演に当時人気絶頂の沢田研二、「仁義なき戦い」などの菅原文太を迎え、半世紀近くたった今でも、映画ファンに熱く語り継がれる社会派エンターテインメント娯楽大作だ。

 いつもチューインガムをかんでいる冴(さ)えない中学の理科教師・城戸(沢田)は、茨城県東海村の原子力発電所からプルトニウムを盗み出し、ひとり暮らしの自室で原爆製造に成功する。つくったはいいが、どう使うかは考えていない。思い付きで警察に電話をかけ、テレビのプロ野球中継の延長を求める。愉快犯と化した城戸の要求はエスカレートし、「ローリング・ストーンズを日本に呼べ」と言い出す。城戸を追う中年警部・山下(菅原)との対決と奇妙な友情が描かれる。

 荒唐無稽に感じる本作を監督した長谷川は広島県賀茂郡西高屋村(現東広島市高屋町)出身。教師だった母は原爆投下後すぐに広島市内に入って放射線を浴び、5カ月の胎児だった長谷川は胎内被爆している。

 脚本作成中の仮タイトルは「笑う原爆」。公開しにくくなるとの反対を受けて「太陽を盗んだ男」に決着したが、太陽は核エネルギーや日の丸の隠喩でもあるのだろう。劇中で原爆をつくる城戸は自らも被曝(ひばく)する。後に長谷川は「加害者と被害者をひとりの人間の中に閉じ込める狙いがあった」と語っている。娯楽活劇の中に強烈なる風刺をにおわせる。

 キネマ旬報の読者選出1位を獲得し、長谷川は、人気と実力を兼ね備えたスター監督に上り詰める。しかし、その後は一本も監督していない。

 私は2022年に監督作「愚か者のブルース」を全国公開し、英国やフランスの国際映画祭でも賞を頂いた。主人公の設定は「30年以上も作品を作っていない映画監督」。すると、観客の誰もが「このストーリーは長谷川和彦さんがモチーフですね」と反応する。その通り。今も期待されながら作品を撮っていない監督というと、長谷川の名が挙がるのだ。なぜ日本映画界はこれだけ映画的な人生を歩んでいる人物の物語を映像化しないのかと、ふがいなく思い続けていた。

 忘れもしない08年9月28日、広島東洋カープの広島市民球場ラストゲーム。「監督! 観戦がてら撮影に来ませんか」とお声掛けすると、ポロシャツにジーンズ姿の長谷川が下駄(げた)を鳴らして東京からやって来た。「20億円あったら次回作を撮りてえんだけどなぁ」と長谷川。私は言った。「城戸より15億円多いですね」。監督はニヤリと笑った。「太陽を盗んだ男」城戸の最後の要求は、「5億円準備しろ」だった。

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 映画を愛する執筆者に広島にまつわる映画を1本選んで、見どころや思い出を紹介してもらいます。随時掲載します。

よこやま・ゆうじ
 1967年、宮崎市生まれ。89年から中国放送アナウンサー。2015年、優れた放送に贈られるギャラクシー賞のラジオ部門DJパーソナリティ賞を受賞。映画監督や俳優、歌手、作家としても活躍。11年から東日本大震災復興支援ライブを続ける。

はと
 1981年、大竹市生まれ。本名秦景子。絵画、グラフィックデザイン、こま撮りアニメーション、舞台美術など幅広い造形芸術を手がける。

作品データ

日本/147分/キティ・フィルム
【脚本】レナード・シュレイダー、長谷川和彦【撮影】鈴木達麿【照明】熊谷秀夫【美術】横尾嘉良【録音】紅谷愃一
【編集】鈴木晄【音楽】井上堯之
【出演】池上季実子、北村和夫、神山繁、佐藤慶、伊藤雄之助、風間杜夫、戸川京子、西田敏行、水谷豊

(2025年1月25日朝刊掲載)

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