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連載・特集

緑地帯 よこみちけいこ 呉空襲の紙芝居 平和の願い託して④

 私が「絵本作家になろう」と思ったのは27歳の時だ。それまで絵を描いたこともなければ、家に絵本一冊もない。日々の仕事も生活もうまくいかなくて、大阪の1人暮らしのアパートで鬱々(うつうつ)とした日々を送っていた。今思えば、若くて健康で何でもできるのに、当時は自分自身に絶望していた。

 そんな時に「心に強く思い描いたことは必ず実現する」という話を聞いた。「そんなのうそやん」と思ったが、心に思うだけならお金もかからないし、と半信半疑でやってみることにした。とにかく何でもいいから自分を変えたかったのだと思う。

 じゃあ何を実現したいのだろう、本当にやりたいことは何だろうと考えていたら、昔の夢がぽこっと出てきたのだ。絵も描けないしお話を作ったこともない私なんかには無理だ、と諦めていた夢。ゼロの状態からスタートして本当に実現したらすごいよなと思いつつ作家を目指し始めた。そして心に強く思い続けて2年後、デビューが決まる。心の法則は本当だった。あれから20年以上たつが、いまだに作家になれたことが信じられないし絵本や紙芝居を作ることができて本当にうれしい。

 子どもの頃は無邪気にいろんな夢を持っていた。わくわくして生きていた。大人になってからはすっかり忘れて、もう夢すら見なくなっていた。どんな小さな夢でもいいから心に持っていよう。それは迷ったり、心が折れたりした時に、自分を灯(とも)す小さな希望の光になるかもしれない。(絵本作家=呉市)

(2025年1月28日朝刊掲載)

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