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連載・特集

緑地帯 よこみちけいこ 呉空襲の紙芝居 平和の願い託して⑥

 誰かの実体験を基に物語を作ることは難しい。体験をそのまま書いても「○○をしました、○○がありました」と、見たこと、したことを羅列した子どもの日記のようになってしまうからだ。それでは紙芝居の観客の感情は動かないだろう。

 紙芝居の脚本を作るために、中峠(なかたお)房江さんからとことん話を聞くことにした。78歳の中峠さんの記憶は鮮やかで、当時の生活や学校の様子、よく歌った童謡やうどん屋のお父さんのこと、日常のささいなことまで細かく教えてくださった。楽しい話ばかりではない。防空壕(ごう)の中でどんなことが起こったのか。焼け野原になった街で何を見たのか。思い出すのも苦しい体験を全部惜しみなく話してくださった。そこからストーリーの核になる出来事を見つけていく。

 中でも、終戦後のあるエピソードがとても印象に残ったが、どうしても紙芝居に入らなかったので、ここで紹介したい。

 「戦争が終わってすぐの頃、夜になっても暑かったから畑にござを敷いて横になったの。そしたら見上げた空に、ものすごい数の星が見えてね、『空ってこんなにきれいだったんだ』って驚いたの! 戦争中はいつ敵の飛行機が飛んでくるか分からない毎日でゆっくり空を見ることもできなかったからねえ。あの空の美しさは忘れられない」

 当たり前のように見ている空を見上げることすらできなくなる、それが戦争なのだ。

 紙芝居のタイトルは「ふうちゃんのそら」に決めた。(絵本作家=呉市)

(2025年1月30日朝刊掲載)

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