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連載・特集

緑地帯 よこみちけいこ 呉空襲の紙芝居 平和の願い託して⑦

 何度も話し合い、試演を繰り返し、修正を重ねて、紙芝居「ふうちゃんのそら」は2015年に完成した。奇(く)しくも終戦70年の節目の年だ。この年の夏、呉市内の防空壕(ごう)の跡地で最後の慰霊祭があり、紙芝居を演じることになった。そこで中峠(なかたお)房江さんと同じ防空壕に逃げ込んだ女性と出会う。彼女は当時19歳の女学生だったが「800人以上が蒸し焼きになったあの中で生き延びた子どもに会ったのは初めて。小さい子どもはみんな押しつぶされて死んだと思うとった」と、中峠さんとの出会いを奇跡のように喜ばれた。紙芝居ができていなければ、2人が出会うことはなかっただろう。間に合って本当によかった。

 紙芝居を携えて、中峠さんは保育園や幼稚園、小学校、高齢者施設や大学など、さまざまな場所に実演に行かれている。紙芝居を見た後、子どもたちは「ほんまのことなん?」と声をかけ、いろんな質問をしてくる。ああ、子どもたちにちゃんと伝わっている、とほっとする。

 ある時、紙芝居を見ていたおばあさんが「初めて話すんじゃけど…」と、自分の戦争体験を堰(せき)を切ったように語り始めた。誰かに話すきっかけを探している人が実は大勢いるのかもしれない。紙芝居には想像を助け共感を呼ぶ強い力があると、改めて感じる。

 長年の中峠さんの夢がかなったこと、その夢に関わることができて、本当にうれしい。

 そして、この夢はどんどん広がっていくことになる。(絵本作家=呉市)

(2025年1月31日朝刊掲載)

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