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社説 米旅客機と軍ヘリ衝突 安全第一の環境整えねば

 米首都ワシントン近郊で、小型旅客機と米陸軍のヘリコプターが空中衝突する事故があった。旅客機には64人、ヘリには3人が乗っていた。生存者はいないとみられている。その瞬間の映像を見ると、衝撃的で言葉に詰まる。

 事故を巡り、トランプ大統領はバイデン前政権の多様性・公平性・包括性(DEI)重視政策に矛先を向けた。リベラルな政策が悲劇を招いたと言わんばかりの主張だが、深刻な事故を政治問題にしている場合ではない。

 米運輸安全委員会(NTSB)は旅客機のフライトレコーダー(飛行記録装置)を回収したという。原因の解明に力を注ぎ、真摯(しんし)に事実を公表してほしい。

 夜間の事故だったが、晴天で気象条件は良かった。旅客機とヘリのいずれかが管制官の許可を誤認していた可能性があるという。トランプ氏は訓練中のヘリの航路に問題があったと指摘している。

 旅客機が向かっていたレーガン・ナショナル空港は、川を挟んでワシントンの対岸にある。米メディアによると、発着のダイヤが全米で最も過密な空港の一つで滑走路が短く、上空を旅客機がひっきりなしに飛び交う。近くには米軍の施設も複数ある。

 この空港は拡張が進み、各地の空港や商工会などでつくる団体が昨年1月、声明で警鐘を鳴らしていた。「既に過重な負担を強いられている空港の便数を増やそうとする無謀な取り組みは、乗客の安全を脅かすだろう」との内容だ。事故が起こりかねないという危機感が広がっていたのだろう。

 ヘリ担当の管制官が1人で航空機の離着陸の誘導も兼ねていたとの報道もある。通常は2人の管制官が指示するという。人手不足が背景にあるのなら、対応を急がなければならない。

 連邦航空局(FAA)は昨年5月、全米で管制官が約3千人足りないと警告している。管制官に疲労がたまることで、航空機がたびたび異常に接近するケースがあるとの指摘も出ていた。

 空港に降りようとした民間機と政府機関の機体の事故という点は、昨年1月に羽田空港で起きた日航機と海上保安庁機の衝突事故と共通する。1時間に最大90回発着できる羽田の混雑も、レーガン空港と大差ない。羽田の事故は年始の夕方で、特に混み合っていた。

 フライトに余裕がなくなると、安全性に問題が生じやすい。操縦士や管制官が、時間に追われて正常な判断力を失い、自分に都合の良いように解釈して行動してしまうことがあるという。「ハリーアップ症候群」として、航空業界では知られている。これまでの事故にも多くの例がある。過去の教訓を生かさなければならない。

 航空機はささいな事故でも人命に関わりかねない。安全第一の姿勢を改めて徹底してほしい。安全より優先される効率化はあってはならない。航空業務に関わる人が、健全な判断を下せる環境を整えるべきだ。

(2025年2月2日朝刊掲載)

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