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社説・コラム

朝凪(あさなぎ) 壕残る山から見た景色

 防空壕(ごう)と聞いて思い浮かぶのが、空襲で母を失った兄妹を描いたアニメ映画「火垂(ほた)るの墓」。壕での暮らしの末に迎えるラストは、戦時下の姿のままの2人が現代のビル群を高台から見下ろすシーンだった。

 広島市東区の二葉山に旧日本軍の第二総軍司令部の壕の跡とみられる穴があると聞き、研究者と訪ねた。現地には土砂で埋まりそうな穴や先が見通せない大きな穴が口を開けていた。

 80年前の8月7日。壕では司令部が行政機関の幹部に軍主導で被爆者の救護や配給に当たる指令を下したと文献に残る。「復興の原点」とも言える場所だが、あまり知られていない。壕の全体像もつかめていない。

 当時を想像しながら山の斜面を歩くうち、視界が開けた。再開発が進むJR広島駅一帯のビル群がいつもより大きく見えた。(社会担当・野平慧一)

(2025年2月4日朝刊掲載)

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