社説 石破トランプ会談 関係深化 言葉でなく中身で
25年2月9日
石破茂首相がトランプ米大統領とホワイトハウスで初めて会談した。2人は日米同盟がインド太平洋地域の繁栄の礎であり続けるとする共同声明を発表し「新たな黄金時代を追求する」とも明記した。
日本側が警戒していたトランプ氏の予期せぬ言動もなかった。共同記者会見では石破首相の冗談も飛び出すなど会談は和やかに進んだようだ。日米双方が成果を強調する結果には、両政府もひとまず安心といったところだろう。
ただ、成功ムードとは裏腹に、両国が関係を深化できるかはこれからが正念場だ。
石破首相は、いすゞ自動車の米国工場建設計画やトヨタ自動車の米工場拡張を挙げ、対米投資は日本がこの5年間連続して世界トップであると強調した。対日貿易赤字の解消を求めるトランプ氏の顔を立て、対米投資を1兆ドル規模に増やすことや米国産液化天然ガス(LNG)の購入増などを約束した。
日本の対米直接投資残高は2023年度末時点で7832億ドルある。時期を明言せずに、日本企業などが3割近く増やす目標を掲げることで、首相はトランプ氏の要求をうまくかわした格好だ。
一方のトランプ氏は、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画を「買収ではなく、多額の投資で合意した」として譲歩する可能性を示唆した。買収に反対したバイデン前政権に比べ、政権の解決能力の高さを強調したい面もあるのだろう。
それでも買収ではなく、投資という表現が何を意味するものかはまだ分からない。日本側に譲歩の姿勢だけを示すだけの狡猾(こうかつ)な外交術とも受け止められよう。
今回の首脳会談は、日米双方が成果を強調するため、中身でなく言葉で化かし合いをしたように見える。トランプ氏が近く発表する、新たな関税措置の対象から日本を除外すると明言されなかったことにも注意が必要だ。
関係の良かった安倍政権の時でさえ、トランプ氏は日本製の鉄鋼やアルミ製品に追加関税を課した。中国やカナダの例を見るまでもなく、対日貿易赤字が減らなければ日本に高関税を発動することも考えられる。首脳会談が首尾よくいったと喜んでばかりはいられまい。
日本は米国の最大の同盟国の一つである。日米関係が冷え込めば米国の戦略にも大きな支障を来すことになる。
首相は在日米軍の法的地位を定めた日米地位協定の見直しなどを持論としてきた。総裁選でも訴えた、その考えを伝えなかったのは物足りないと言わざるを得ない。
米中外交における日本の立ち位置も重要だ。対中政策で歴代最強硬とされるトランプ氏に引きずられることなく、改善の兆しが出てきた日中関係を冷え込ませないかじ取りも首相には求められよう。
「今回の主眼は個人的信頼関係の構築だ」とする石破首相の思いは理解できる。だがトランプ氏の顔色をうかがうだけでは不十分だ。言うべきことは言い、真の信頼関係を築いてもらいたい。
(2025年2月9日朝刊掲載)
日本側が警戒していたトランプ氏の予期せぬ言動もなかった。共同記者会見では石破首相の冗談も飛び出すなど会談は和やかに進んだようだ。日米双方が成果を強調する結果には、両政府もひとまず安心といったところだろう。
ただ、成功ムードとは裏腹に、両国が関係を深化できるかはこれからが正念場だ。
石破首相は、いすゞ自動車の米国工場建設計画やトヨタ自動車の米工場拡張を挙げ、対米投資は日本がこの5年間連続して世界トップであると強調した。対日貿易赤字の解消を求めるトランプ氏の顔を立て、対米投資を1兆ドル規模に増やすことや米国産液化天然ガス(LNG)の購入増などを約束した。
日本の対米直接投資残高は2023年度末時点で7832億ドルある。時期を明言せずに、日本企業などが3割近く増やす目標を掲げることで、首相はトランプ氏の要求をうまくかわした格好だ。
一方のトランプ氏は、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画を「買収ではなく、多額の投資で合意した」として譲歩する可能性を示唆した。買収に反対したバイデン前政権に比べ、政権の解決能力の高さを強調したい面もあるのだろう。
それでも買収ではなく、投資という表現が何を意味するものかはまだ分からない。日本側に譲歩の姿勢だけを示すだけの狡猾(こうかつ)な外交術とも受け止められよう。
今回の首脳会談は、日米双方が成果を強調するため、中身でなく言葉で化かし合いをしたように見える。トランプ氏が近く発表する、新たな関税措置の対象から日本を除外すると明言されなかったことにも注意が必要だ。
関係の良かった安倍政権の時でさえ、トランプ氏は日本製の鉄鋼やアルミ製品に追加関税を課した。中国やカナダの例を見るまでもなく、対日貿易赤字が減らなければ日本に高関税を発動することも考えられる。首脳会談が首尾よくいったと喜んでばかりはいられまい。
日本は米国の最大の同盟国の一つである。日米関係が冷え込めば米国の戦略にも大きな支障を来すことになる。
首相は在日米軍の法的地位を定めた日米地位協定の見直しなどを持論としてきた。総裁選でも訴えた、その考えを伝えなかったのは物足りないと言わざるを得ない。
米中外交における日本の立ち位置も重要だ。対中政策で歴代最強硬とされるトランプ氏に引きずられることなく、改善の兆しが出てきた日中関係を冷え込ませないかじ取りも首相には求められよう。
「今回の主眼は個人的信頼関係の構築だ」とする石破首相の思いは理解できる。だがトランプ氏の顔色をうかがうだけでは不十分だ。言うべきことは言い、真の信頼関係を築いてもらいたい。
(2025年2月9日朝刊掲載)