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社説・コラム

社説 米露の停戦交渉 ウクライナ軽視 許されぬ

 ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、就任したばかりのトランプ米大統領が停戦の仲介に乗り出した。ロシアのプーチン大統領と電話会談し、米ロが戦争終結に向けた交渉を始めることで合意した。

 侵攻から間もなく3年を迎える。トランプ氏が交渉目的として掲げた「大勢の死を防ぎたい」との考えに異論はない。戦闘の泥沼化や国際社会の分断といった行き詰まりを打開する和平協議が必要なのは言うまでもない。

 しかし、侵攻を受けた当事者であるウクライナの意向を軽んじた交渉は、断じて許されない。まして侵攻した国のロシアを優先し、肩入れした交渉は認められない。

 そもそもロシアが国連安全保障理事会の常任理事国でありながら国際法を無視し、ウクライナ領土に武力侵攻したのが始まりだ。一方的に東部・南部4州の併合まで宣言した。残虐行為を含めて加害の責任を棚上げするようなら国際秩序の崩壊につながる。

 あまりに大きく、電撃的な米国の政策転換である。バイデン前大統領の時は軍事支援を通じウクライナの最大の後ろ盾だった。常に欧州諸国との連帯を強調し、プーチン氏との直接交渉は避けてきた。それを「力による平和」を唱えるトランプ氏が、1期目に築いた個人的関係を頼みに政治的な取引に踏み出した。

 しかもトランプ政権はロシア寄りの融和政策をベースに交渉する姿勢を見せる。最大の焦点の領土についてトランプ氏は、2014年にロシアに併合されたウクライナ南部クリミアを念頭に「以前の国境に戻る可能性は低い」と述べている。ウクライナに譲歩を求める腹だろう。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は一貫して、クリミアを含め全領土の回復を主張する。米ロの電話会談を受け、欧州を含めた協議の和平協定を求めると繰り返し訴えた。くぎを刺すのは当然である。

 停戦後の安全保障も譲れない一線だ。プーチン氏の言動を踏まえれば、ウクライナの主権を制限して支配下に置く望みを捨てず、停戦後に再び侵攻する可能性は拭えない。ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)加盟を求めている。だが米国は公表した戦争終結方針で、加盟断念と、米国抜きの欧州平和維持部隊の配備を求めた。ロシア側の主張そのものではないか。

 欧州諸国は即刻、欧州とウクライナの交渉への関与が不可欠だと共同声明を発した。米ロだけでの交渉はプーチン氏に利益をもたらすだけだ。警戒するのはもっともだ。

 トランプ氏が大統領選で停戦の仲介を公約し、拙速に事を進める現状は、自らの「名声」のためだとしか思えない。ウクライナに対し、支援と引き換えに国土にあるレアアース(希土類)を求めるような発言は言語道断だ。

 本来ならロシアに侵攻を断念させるのが最良の解決策だと、理解しているのか疑問である。ロシアに有利な決着に持ち込めば、力による現状変更を追認したに等しい。東アジア情勢をも左右する事態であり到底、看過できない。

(2025年2月17日朝刊掲載)

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