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社説・コラム

朝凪(あさなぎ) 結ばれた靴ひもの先に

 昨夏、ソウルや釜山を訪れた時のこと。韓国の被爆者たちに会い、被爆の記憶や、朝鮮半島へ帰った後も差別を受け続けた苦悩を聞いた。日本人として胸がずしりと痛んだ。

 話の最後には必ず、広島や長崎、大阪の人たちの名前が上がった。長く被爆者援護法の枠外に置かれた在韓被爆者のために、手弁当で支えてくれた人たちのこと。大切な人を思い返すような余韻があった。

 帰り際、被爆者の母親に付き添っていた二世の女性がさっと私の元に駆け寄った。膝をつくと、ほどけていた靴ひもをきつく結んでくれた。初対面の私にどうして…。戸惑いながらも、気遣いがうれしかった。

 その優しさは、巡り巡って私に届いたもの。結ばれた靴ひもに、半世紀余の在韓被爆者支援の歩みが重なって見えた。(社会担当・頼金育美)

(2025年2月15日朝刊掲載)

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