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那須さん遺稿 包み込む絵 「やくそく ぼくらはぜったい戦争しない」 被爆80年機に出版

詩の世界観を凝縮 命の大切さ訴え

 人気シリーズ「ズッコケ三人組」の作者で、広島市西区出身の児童文学作家・那須正幹さん(2021年に79歳で死去)の遺稿から生まれた絵本「やくそく ぼくらはぜったい戦争しない」(ポプラ社)=写真=が出版された。子どもたちに語りかけるような那須さんの詩と、親しみやすい絵で、被爆者の苦しみや命の大切さを訴える。(桑島美帆)

 物語は、中学生のトオルが登校する際、祖母から「にいちゃん、いってらっしゃい」と見送られる場面で始まる。祖母の兄に間違えられて戸惑うトオル。やがて原爆で両親と兄を失い、孤児になった祖母の半生や心情に思いをはせるようになる。

 絵本作家の武田美穂さん(65)=東京=が、ぬくもりのある柔らかい雰囲気のイラストを描き、詩の世界観を表現した。「那須先生の遺作に絵を描くことになり緊張したが、詩に凝縮されている思いを大事にした」と武田さん。「あからさまな表現は避け、命や優しさが大事だという基本的なことを、幼い子どもたちにも届けたいと思った」と打ち明ける。

 原作となった遺稿のタイトルは「ばあちゃんの詩(うた)」。約10年前、被爆70年の記念事業に向け、広島市文化財団の山本真治さん(63)が防府市内の那須さんの自宅を訪ね、制作を依頼した。

 那須さんの詩に、初期ウルトラマン・シリーズの音楽で知られる広島ゆかりの作曲家冬木透さん(昨年89歳で死去)が合唱曲を付けて広島で初演する、という企画だった。共に戦前生まれの2人は対面して意気投合し、構想を膨らませたという。

 実際に本番で歌われた歌詞は那須さんが書き直したもので、「ばあちゃんの詩」はお蔵入りに。那須さんが亡くなった翌年、遺稿を山本さんが公開していた。

 那須さんは、3歳の時に爆心地から約3キロの庚午北町(現西区己斐本町)の自宅で被爆した。生前、山本さんに「被爆80年も生きているだろうから、被爆者の役目として、きちんと原爆のことを伝える」と語っていたという。

 絵本は、日本児童文学者協会(東京)にある那須正幹著作権管理委員会が、被爆80年に合わせて出版を企画。戦争をテーマにした絵本「ねんどの神さま」(1992年)で那須さんとコンビを組んだ武田さんに、絵の制作を依頼した。

 刊行された絵本を手にした山本さんは「読み聞かせをすれば、親子で平和について考えるきっかけになる。きっと那須先生も喜んでいるだろう。ぜひ朗読会を開きたい」と話している。

 B4変型判カラー、32ページ。1980円。

(2025年2月18日朝刊掲載)

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