社説 ウクライナ侵攻3年 停戦は最優先課題だが
25年2月24日
ロシアがウクライナに侵攻を始めて今日で3年になる。
電撃的に侵攻し、親ロシア政権を立てるつもりだったのだろうがウクライナの抵抗は強く、戦争は泥沼化した。
ウクライナの辛苦は察するに余りある。国土の2割を支配されている理不尽さは耐えがたいものに違いない。
一方で厭戦(えんせん)気分も広がる。戦争が長引く中、領土の一部を断念しても早期停戦を望む声もあるようだ。多くの国民が命を失う現状を踏まえれば一刻も早く戦争を止めることを優先させるべきなのも分かる。しかし米国のトランプ大統領のやり方なら禍根を残すと言わざるを得ない。
バイデン前政権がウクライナへの限定的な武器支援と、経済制裁でロシアの敗北を狙ったがうまくいかなかったのは確かだ。交渉の達人を自称するトランプ氏が停戦へ乗り出し、ロシアも表向きは応じる構えを見せている。だが、その内容は、国際社会がもろ手を挙げて賛成できるものにはなりそうにない。
そもそもロシアのプーチン大統領は隣国を公然と侵略した「戦争犯罪人」である。米国がその責任を問うこともなく、幕引きを図ることは許されるのか。トランプ氏の主張通り先進国7カ国(G7)の枠組みに復帰するなど言語道断であり、まずロシアに攻撃停止とウクライナからの即時撤退を迫るのが筋だろう。
あろうことかトランプ氏は侵攻を受けているウクライナのゼレンスキー大統領を「選挙をしない独裁者」呼ばわりしている。これまでの支援の見返りに、希少な鉱物資源の供与も要求している。
自国の利益を優先した、露骨なロシア寄りの姿勢に開いた口がふさがらない。ウクライナの意向を無視し、米ロ両国だけで勝手に停戦合意することはあってはなるまい。
第2次世界大戦前夜のミュンヘン会談を思い出す。英仏独伊4国の首脳が集まり、ドイツ系住民が4分の1を占めるチェコスロバキアのズデーテン地方をナチスドイツに割譲することで合意した。
戦争回避が最優先され、当事者のチェコは会議への参加もかなわなかった。しかし、大国の合意で得られた平和はつかの間で、チェコはあっという間に分割解体された。
世界大戦につながった負の歴史を教訓にするならば、少なくとも停戦後に、ロシアの侵略を食い止める実効的な安全保障策をウクライナに示すことが不可欠だろう。
ウクライナだけではない。かつてソ連に支配された東欧諸国は、とりわけロシアの脅威を感じている。ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟なども含め、欧州全体の安全保障体制の再構築が急がれよう。
ロシアがウクライナ南部のクリミアを併合した2014年、日本は形ばかりの制裁を科した。北方領土問題へ悪影響を考えたのだろうが、それが今回の侵攻をもたらした遠因の一つとの見方もある。
停戦にしても国際社会が納得できる内容でなくてはならない。日本政府はトランプ氏にそう言えるだろうか。
(2025年2月24日朝刊掲載)
電撃的に侵攻し、親ロシア政権を立てるつもりだったのだろうがウクライナの抵抗は強く、戦争は泥沼化した。
ウクライナの辛苦は察するに余りある。国土の2割を支配されている理不尽さは耐えがたいものに違いない。
一方で厭戦(えんせん)気分も広がる。戦争が長引く中、領土の一部を断念しても早期停戦を望む声もあるようだ。多くの国民が命を失う現状を踏まえれば一刻も早く戦争を止めることを優先させるべきなのも分かる。しかし米国のトランプ大統領のやり方なら禍根を残すと言わざるを得ない。
バイデン前政権がウクライナへの限定的な武器支援と、経済制裁でロシアの敗北を狙ったがうまくいかなかったのは確かだ。交渉の達人を自称するトランプ氏が停戦へ乗り出し、ロシアも表向きは応じる構えを見せている。だが、その内容は、国際社会がもろ手を挙げて賛成できるものにはなりそうにない。
そもそもロシアのプーチン大統領は隣国を公然と侵略した「戦争犯罪人」である。米国がその責任を問うこともなく、幕引きを図ることは許されるのか。トランプ氏の主張通り先進国7カ国(G7)の枠組みに復帰するなど言語道断であり、まずロシアに攻撃停止とウクライナからの即時撤退を迫るのが筋だろう。
あろうことかトランプ氏は侵攻を受けているウクライナのゼレンスキー大統領を「選挙をしない独裁者」呼ばわりしている。これまでの支援の見返りに、希少な鉱物資源の供与も要求している。
自国の利益を優先した、露骨なロシア寄りの姿勢に開いた口がふさがらない。ウクライナの意向を無視し、米ロ両国だけで勝手に停戦合意することはあってはなるまい。
第2次世界大戦前夜のミュンヘン会談を思い出す。英仏独伊4国の首脳が集まり、ドイツ系住民が4分の1を占めるチェコスロバキアのズデーテン地方をナチスドイツに割譲することで合意した。
戦争回避が最優先され、当事者のチェコは会議への参加もかなわなかった。しかし、大国の合意で得られた平和はつかの間で、チェコはあっという間に分割解体された。
世界大戦につながった負の歴史を教訓にするならば、少なくとも停戦後に、ロシアの侵略を食い止める実効的な安全保障策をウクライナに示すことが不可欠だろう。
ウクライナだけではない。かつてソ連に支配された東欧諸国は、とりわけロシアの脅威を感じている。ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟なども含め、欧州全体の安全保障体制の再構築が急がれよう。
ロシアがウクライナ南部のクリミアを併合した2014年、日本は形ばかりの制裁を科した。北方領土問題へ悪影響を考えたのだろうが、それが今回の侵攻をもたらした遠因の一つとの見方もある。
停戦にしても国際社会が納得できる内容でなくてはならない。日本政府はトランプ氏にそう言えるだろうか。
(2025年2月24日朝刊掲載)