かなしきデブ猫ちゃん マルのさすらいのヒーロー 広島の過去と今 物語の中に
25年2月22日
4月から中国新聞で連載が始まる創作童話「かなしきデブ猫ちゃん」。「広い世界を見たい」と旅する主人公の猫「マル」の冒険物語は、これまで連載してきた愛媛新聞と神戸新聞で絵本になるなど人気を集めてきました。「ニャンニャンニャン」の語呂合わせで「猫の日」とされる2月22日に合わせ、作者の作家早見和真さんと絵本作家かのうかりんさんに物語に込めた思いを聞きました。(高橋寧々)
―愛媛新聞、神戸新聞と続いてきた童話の連載です。
20年後の成人式で、各県の県民が共有している物語を作りたい。そしてデブ猫ちゃんの本を手にした外国人が、舞台となった場所を旅する未来をつくりたいと続けてきました。本の効用は、自分以外の誰かの人生を経験することだと思っています。経験した人生の数が多くなれば多くなるほど人間は魅力的になる。僕はそう信じています。これまでの連載の読者からたくさん感想が届きました。デブ猫がきっかけとなり本を読むのが好きになったという手紙が一番うれしい。
―タイトルにはどんな思いを込めましたか。
一方通行の批判にあらがえなくなる現状に立ち向かいたい。「デブ」は本来、何かを裁く言葉ではない。物語を通して「デブ」のイメージを変えたい。マルが楽しくクールに生きる姿で証明したい。
―実在する場所を旅する理由は。
生まれ育った子どもたちが見ている町と、部外者の僕が見ている町はきっと景色が違う。住んでいる人にとって当たり前の光景が実は特別なんだと語れるのは僕しかいない。物語を通して「この景色っていいもんなんだ」と気付いてほしい。
―「広い世界を見に行く」がシリーズを通してのテーマです。
町を出て自分の世界が大きくなるほど生まれ育った町の良さを俯瞰(ふかん)できます。だからこそマルは愛媛から兵庫、広島にやって来た。いずれは世界の新聞社と組んでもっと広い世界をマルに見せたいですね。
―連載中の8月には被爆80年を迎えます。
教科書として与えられて知る物語ではなく、過去と今が続いていることを面白い物語に溶け込ませたい。部外者である僕の目で見たものを伝えたいとの思いは、おととしぐらいからありました。
―物語を通して子どもたちに何を伝えますか。
新聞なんて、小説なんて読まないよと思っている人に、一度心をぐにゃぐにゃにして週に1回付き合ってもらいたい。子どもたちが郵便受けに新聞を取りに行く未来を信じています。純粋に子どもたちめがけて、真摯(しんし)に広島と向き合います。
はやみ・かずまさ
1977年生まれ。横浜市出身。「ザ・ロイヤルファミリー」で19年JRA賞馬事文化賞、山本周五郎賞受賞。「95」「笑うマトリョーシカ」など多くの作品が映像化されている。
―主人公マルのモデルは?
早見さんが飼っている「ちゃちゃまる」という猫です。初めて早見さんの家で見かけたときに人間みたいにいろいろ考えているような雰囲気を感じて。瞳孔周りを白にして、哀愁漂う人間くさいマルを表現しました。
―物語にはたくさんの生き物が登場します。
キャラクターの性格が顔に出るので、文章になくても「こんな子かな、声がこうかな」と全員想像してから描いてます。そこが一番楽しいです。
―広島編では戦争や原爆も描かれる予定です。
避けられないテーマであり、自分自身も苦しむと思います。シリーズでは「今」の町の姿を描いてきたので、例えば原爆ドームならそこに流れている空気を切り取りたい。ドームを見て感じる気持ちは人それぞれですが、そこに寄り添える絵にしたいです。
―読者へのメッセージをお願いします。
愛媛編では愛媛で生まれた私でも知らない場所を物語でたくさん知りました。マルを通して皆さんにも広島の良さを再発見してもらいたいです。
かのう・かりん
1983年生まれ。愛媛県今治市出身。自然や生き物などをテーマに絵を描く。「いろんなおめん」でフジテレビBe絵本大賞入賞。最新作は「こてんちゃんがきた!」。
(2025年2月22日朝刊掲載)
作家 早見和真さん
当たり前の景色 特別さ伝えたい
―愛媛新聞、神戸新聞と続いてきた童話の連載です。
20年後の成人式で、各県の県民が共有している物語を作りたい。そしてデブ猫ちゃんの本を手にした外国人が、舞台となった場所を旅する未来をつくりたいと続けてきました。本の効用は、自分以外の誰かの人生を経験することだと思っています。経験した人生の数が多くなれば多くなるほど人間は魅力的になる。僕はそう信じています。これまでの連載の読者からたくさん感想が届きました。デブ猫がきっかけとなり本を読むのが好きになったという手紙が一番うれしい。
―タイトルにはどんな思いを込めましたか。
一方通行の批判にあらがえなくなる現状に立ち向かいたい。「デブ」は本来、何かを裁く言葉ではない。物語を通して「デブ」のイメージを変えたい。マルが楽しくクールに生きる姿で証明したい。
―実在する場所を旅する理由は。
生まれ育った子どもたちが見ている町と、部外者の僕が見ている町はきっと景色が違う。住んでいる人にとって当たり前の光景が実は特別なんだと語れるのは僕しかいない。物語を通して「この景色っていいもんなんだ」と気付いてほしい。
―「広い世界を見に行く」がシリーズを通してのテーマです。
町を出て自分の世界が大きくなるほど生まれ育った町の良さを俯瞰(ふかん)できます。だからこそマルは愛媛から兵庫、広島にやって来た。いずれは世界の新聞社と組んでもっと広い世界をマルに見せたいですね。
―連載中の8月には被爆80年を迎えます。
教科書として与えられて知る物語ではなく、過去と今が続いていることを面白い物語に溶け込ませたい。部外者である僕の目で見たものを伝えたいとの思いは、おととしぐらいからありました。
―物語を通して子どもたちに何を伝えますか。
新聞なんて、小説なんて読まないよと思っている人に、一度心をぐにゃぐにゃにして週に1回付き合ってもらいたい。子どもたちが郵便受けに新聞を取りに行く未来を信じています。純粋に子どもたちめがけて、真摯(しんし)に広島と向き合います。
はやみ・かずまさ
1977年生まれ。横浜市出身。「ザ・ロイヤルファミリー」で19年JRA賞馬事文化賞、山本周五郎賞受賞。「95」「笑うマトリョーシカ」など多くの作品が映像化されている。
絵本作家 かのうかりんさん
町の姿 空気を切り取る
―主人公マルのモデルは?
早見さんが飼っている「ちゃちゃまる」という猫です。初めて早見さんの家で見かけたときに人間みたいにいろいろ考えているような雰囲気を感じて。瞳孔周りを白にして、哀愁漂う人間くさいマルを表現しました。
―物語にはたくさんの生き物が登場します。
キャラクターの性格が顔に出るので、文章になくても「こんな子かな、声がこうかな」と全員想像してから描いてます。そこが一番楽しいです。
―広島編では戦争や原爆も描かれる予定です。
避けられないテーマであり、自分自身も苦しむと思います。シリーズでは「今」の町の姿を描いてきたので、例えば原爆ドームならそこに流れている空気を切り取りたい。ドームを見て感じる気持ちは人それぞれですが、そこに寄り添える絵にしたいです。
―読者へのメッセージをお願いします。
愛媛編では愛媛で生まれた私でも知らない場所を物語でたくさん知りました。マルを通して皆さんにも広島の良さを再発見してもらいたいです。
かのう・かりん
1983年生まれ。愛媛県今治市出身。自然や生き物などをテーマに絵を描く。「いろんなおめん」でフジテレビBe絵本大賞入賞。最新作は「こてんちゃんがきた!」。
(2025年2月22日朝刊掲載)