『潮流』 鉄人28号と戦争
25年2月22日
■特別論説委員 岩崎誠
阪神大震災から30年を迎えた神戸市長田区を訪れた。焼け野原からの再開発事業を終えたばかりのJR新長田駅周辺を歩くと、「鉄人28号」がやはり胸を打つ。神戸出身の漫画家、故横山光輝さんが世に出した正義のヒーローを16年前、地元の有志が高さ15メートル強の巨大モニュメントにした。
神戸よ負けるな、と右手を大空に突き出す姿が力強い。復興の象徴に加え、重要な観光資源である。一帯はビルやマンションが立ち並び、地区人口は被災前の1・4倍に増えたが商業面のにぎわいは戻らない。エールを送る鉄人の役割には終わりがないのだろう。
その鉄人から、もう一つのメッセージも読み取りたくなった。1956年からの連載漫画の始まりを「原作完全版」で知ったからだ。
最初から鉄人は正義の味方だったのではない。旧日本軍が大戦末期、南方の孤島の秘密兵器工場で造った強い破壊力のロボットが正体。それを主人公の正太郎少年が悪の組織と奪い合う―。28とは日本による軍事ロボットの開発順であり、日本を焦土と化した米軍機のB29から横山さんが着想したとも伝えられる。
奥の深い初期の設定を現代に置き換えると、懸念される自律型致死兵器システム、つまり殺人ロボットの開発に思いが至る。無人機攻撃が当たり前となり、人工知能(AI)の軍事利用も加速する中で実戦に投入され、人の命を奪うロボットの姿も絵空事ではない。
戦後80年を迎えるロボット大国日本から強い決意を表明すべきではないか。科学技術は人類全体の正義に使うという誓いと、そうなっていない現実への怒りを。神戸の鉄人像のこぶしを見上げ、そんなことも思った。
(2025年2月22日朝刊掲載)
阪神大震災から30年を迎えた神戸市長田区を訪れた。焼け野原からの再開発事業を終えたばかりのJR新長田駅周辺を歩くと、「鉄人28号」がやはり胸を打つ。神戸出身の漫画家、故横山光輝さんが世に出した正義のヒーローを16年前、地元の有志が高さ15メートル強の巨大モニュメントにした。
神戸よ負けるな、と右手を大空に突き出す姿が力強い。復興の象徴に加え、重要な観光資源である。一帯はビルやマンションが立ち並び、地区人口は被災前の1・4倍に増えたが商業面のにぎわいは戻らない。エールを送る鉄人の役割には終わりがないのだろう。
その鉄人から、もう一つのメッセージも読み取りたくなった。1956年からの連載漫画の始まりを「原作完全版」で知ったからだ。
最初から鉄人は正義の味方だったのではない。旧日本軍が大戦末期、南方の孤島の秘密兵器工場で造った強い破壊力のロボットが正体。それを主人公の正太郎少年が悪の組織と奪い合う―。28とは日本による軍事ロボットの開発順であり、日本を焦土と化した米軍機のB29から横山さんが着想したとも伝えられる。
奥の深い初期の設定を現代に置き換えると、懸念される自律型致死兵器システム、つまり殺人ロボットの開発に思いが至る。無人機攻撃が当たり前となり、人工知能(AI)の軍事利用も加速する中で実戦に投入され、人の命を奪うロボットの姿も絵空事ではない。
戦後80年を迎えるロボット大国日本から強い決意を表明すべきではないか。科学技術は人類全体の正義に使うという誓いと、そうなっていない現実への怒りを。神戸の鉄人像のこぶしを見上げ、そんなことも思った。
(2025年2月22日朝刊掲載)