[核兵器禁止条約 第3回締約国会議] 初参加のインドネシアと不参加の米 核政策の専門家に聞く
25年2月28日
米ニューヨークの国連本部で3月3日に開幕する核兵器禁止条約の第3回締約国会議に、世界第4位の人口を抱えるインドネシアが初めて加盟国として参加する。一方、開催地の米国をはじめ核兵器保有国は過去2回と同じく参加しない。今月来日したインドネシアと米国の核政策の専門家に核を巡る自国、多国間の状況や、日本の役割について考えを聞いた。(宮野史康)
日本 アジア安定関与を
―インドネシアは昨年9月に核兵器禁止条約を批准し、正式な加盟国になりましたね。
人口2億8千万人。東南アジア諸国連合(ASEAN)の盟主でアジアの協力と安全保障に重要な役割を果たしている。隣国オーストラリアや、条約に署名したが、批准しないままのミャンマーとブルネイに加盟を促す力になるだろう。
―2017年の署名から7年要したのは。
政府とやりとりする限り、手続きに時間がかかったのが実情のようだ。条約への加盟が、将来的な原発導入の障壁にならないかといった確認を進めていたと聞いている。
―インドネシアの外交姿勢の特徴は。
各国とのバランス外交だ。米中のどちらに付くかを迫られるのは避けたい。台湾を巡る両国の衝突は最悪の事態だ。また、ASEANに日中韓を加えたASEANプラス3という枠組みで対話を促している。
ロシアのウクライナ侵攻後、22年の20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で議長国を務め、核兵器を否定する首脳宣言に米中ロの合意を取り付けた。西側からはロシアを非難するよう圧力がかかっていた。「核兵器の使用や、使用の脅しは許されない」と全ての国を対象とする表現で折り合いをつけた。
―日本政府への期待は。
アジアの平和と安定にもっと関与してほしい。中国を念頭に米国の核抑止力への依存を強めているが、アジアで核軍縮を進めるには、中国との対立を解消する必要がある。米国との同盟強化にひた走るのではなく、中国との緊張緩和に取り組むべきだ。
1965年インドネシア・東ジャワ州生まれ。オーストラリア国立大で修士号取得(政治学)。92年から現職。核廃絶運動にも関わっている。専門は人道主義。ジョクジャカルタ在住。
米露「核増やさぬ」約束を
―トランプ政権の核政策をどう予測しますか。
新政権は世界各地に核戦争の火種がある厳しい情勢の中で発足した。米ロ間の核軍縮合意、新戦略兵器削減条約(新START)の失効が2026年2月に迫っている。過去35年で初めて、核兵器の数が増加に転じるかもしれない。政権ブレーンには爆発を伴う核実験の再開を主張する人もいる。ロシアや中国、北朝鮮に核実験の口実を与える恐れもある。
―トランプ氏は就任直後の1月、米中ロの非核化に意欲を示しました。
具体的な計画には触れていないが、ノーベル平和賞を欲しがっているのは間違いない。ロシアのプーチン大統領との対話は始まるだろう。一歩目としては、両者が互いに核兵器の数を増やさないと約束し合うのが現実的だ。信頼と安心感を醸成し、新STARTを継ぐ核軍縮条約の交渉時間を稼ぐことができる。
中国を巡っては、1期目で米中ロ3カ国での核軍縮協議を模索したが、失敗した。米ロの核兵器が世界の大半を占める中で、中国が同じ土俵に立つ可能性は低い。まずは2国間で話し合い、互いの懸念を理解し合う必要がある。
―日本の役割は。
日本はトランプ氏と話し合い、核軍縮や軍備管理に取り組むよう促すべきだ。欧州の同盟国よりも信頼を得ているように見える。核兵器禁止条約の枠組みでなくても、被爆80年の節目に核兵器の非人道的な影響に関する国際会議を開く手もある。私たちは核保有国と非保有国が対話する「核軍縮サミット」の開催を提案している。ぜひ日本も協力してほしい。
1964年カナダ・キングストン生まれ。米マイアミ大卒。公共政策団体「社会的責任のための医師の会(PSR)」を経て、2001年から現職。専門は核軍縮。ワシントン在住。
(2025年2月28日朝刊掲載)
ガジャマダ大(インドネシア) ムハディ・スギオノ講師(59)
日本 アジア安定関与を
―インドネシアは昨年9月に核兵器禁止条約を批准し、正式な加盟国になりましたね。
人口2億8千万人。東南アジア諸国連合(ASEAN)の盟主でアジアの協力と安全保障に重要な役割を果たしている。隣国オーストラリアや、条約に署名したが、批准しないままのミャンマーとブルネイに加盟を促す力になるだろう。
―2017年の署名から7年要したのは。
政府とやりとりする限り、手続きに時間がかかったのが実情のようだ。条約への加盟が、将来的な原発導入の障壁にならないかといった確認を進めていたと聞いている。
―インドネシアの外交姿勢の特徴は。
各国とのバランス外交だ。米中のどちらに付くかを迫られるのは避けたい。台湾を巡る両国の衝突は最悪の事態だ。また、ASEANに日中韓を加えたASEANプラス3という枠組みで対話を促している。
ロシアのウクライナ侵攻後、22年の20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で議長国を務め、核兵器を否定する首脳宣言に米中ロの合意を取り付けた。西側からはロシアを非難するよう圧力がかかっていた。「核兵器の使用や、使用の脅しは許されない」と全ての国を対象とする表現で折り合いをつけた。
―日本政府への期待は。
アジアの平和と安定にもっと関与してほしい。中国を念頭に米国の核抑止力への依存を強めているが、アジアで核軍縮を進めるには、中国との対立を解消する必要がある。米国との同盟強化にひた走るのではなく、中国との緊張緩和に取り組むべきだ。
1965年インドネシア・東ジャワ州生まれ。オーストラリア国立大で修士号取得(政治学)。92年から現職。核廃絶運動にも関わっている。専門は人道主義。ジョクジャカルタ在住。
軍備管理協会(米国) ダリル・キンボール会長(60)
米露「核増やさぬ」約束を
―トランプ政権の核政策をどう予測しますか。
新政権は世界各地に核戦争の火種がある厳しい情勢の中で発足した。米ロ間の核軍縮合意、新戦略兵器削減条約(新START)の失効が2026年2月に迫っている。過去35年で初めて、核兵器の数が増加に転じるかもしれない。政権ブレーンには爆発を伴う核実験の再開を主張する人もいる。ロシアや中国、北朝鮮に核実験の口実を与える恐れもある。
―トランプ氏は就任直後の1月、米中ロの非核化に意欲を示しました。
具体的な計画には触れていないが、ノーベル平和賞を欲しがっているのは間違いない。ロシアのプーチン大統領との対話は始まるだろう。一歩目としては、両者が互いに核兵器の数を増やさないと約束し合うのが現実的だ。信頼と安心感を醸成し、新STARTを継ぐ核軍縮条約の交渉時間を稼ぐことができる。
中国を巡っては、1期目で米中ロ3カ国での核軍縮協議を模索したが、失敗した。米ロの核兵器が世界の大半を占める中で、中国が同じ土俵に立つ可能性は低い。まずは2国間で話し合い、互いの懸念を理解し合う必要がある。
―日本の役割は。
日本はトランプ氏と話し合い、核軍縮や軍備管理に取り組むよう促すべきだ。欧州の同盟国よりも信頼を得ているように見える。核兵器禁止条約の枠組みでなくても、被爆80年の節目に核兵器の非人道的な影響に関する国際会議を開く手もある。私たちは核保有国と非保有国が対話する「核軍縮サミット」の開催を提案している。ぜひ日本も協力してほしい。
1964年カナダ・キングストン生まれ。米マイアミ大卒。公共政策団体「社会的責任のための医師の会(PSR)」を経て、2001年から現職。専門は核軍縮。ワシントン在住。
(2025年2月28日朝刊掲載)