『潮流』 大切な一枚
25年3月1日
■論説委員 田原直樹
大事にしている写真が誰にもあるだろう。今は亡き両親や親族に囲まれた一枚は、幼い自分だけしかめっ面。ごちゃごちゃした背景も残念だが、大切な一枚である。
今では残念な一枚などあり得ないのだろうか。簡単に加工できるから。スマートフォンのCMで写真は撮られると、すぐに人物の配置や背景を変え、余計な物を消すなど手が加えられ…。みんな笑顔の「完全な写真」が出来上がる。それが大切な一枚となるのか。
原爆資料館できのう、被爆直後の広島を捉えた写真・映像の展示が始まった。ユネスコ「世界の記憶」登録を目指す資料の一部。傷ついた人々や壊滅した街の姿を伝える歴史的な記録である。
「歴史の証人」として写真を多く残しておけば―。数多く撮影しながら占領軍進駐前に大部分を焼却した人の言葉も紹介されていた。
展示写真にあらためて衝撃を受けた帰り道、ふと思った。1日に何枚の写真が撮影されているのかと。アプリで加工する人も多いだろう。大げさに言うと、ありのままではなく、都合よく改変して記録することだ。
私たちがスマホで撮る画像と、貴重な歴史的写真。比べるべきではあるまいし、ナンセンスと笑われるかもしれない。
だが、加工や改変といった写真の扱いに慣れてしまうことが恐ろしい。戦争などの歴史を捉えた一枚を見る、人々の目が変わりはしないか。
生成人工知能(AI)を使い、誰でも手軽に画像を改変できる時代だ。ディープフェイクと呼ばれる、リアルに作られた画像や映像が世界中でさまざまな問題を引き起こし、人を傷つける。
写真を撮ること、撮った一枚を大切にしたい。
(2025年3月1日朝刊掲載)
大事にしている写真が誰にもあるだろう。今は亡き両親や親族に囲まれた一枚は、幼い自分だけしかめっ面。ごちゃごちゃした背景も残念だが、大切な一枚である。
今では残念な一枚などあり得ないのだろうか。簡単に加工できるから。スマートフォンのCMで写真は撮られると、すぐに人物の配置や背景を変え、余計な物を消すなど手が加えられ…。みんな笑顔の「完全な写真」が出来上がる。それが大切な一枚となるのか。
原爆資料館できのう、被爆直後の広島を捉えた写真・映像の展示が始まった。ユネスコ「世界の記憶」登録を目指す資料の一部。傷ついた人々や壊滅した街の姿を伝える歴史的な記録である。
「歴史の証人」として写真を多く残しておけば―。数多く撮影しながら占領軍進駐前に大部分を焼却した人の言葉も紹介されていた。
展示写真にあらためて衝撃を受けた帰り道、ふと思った。1日に何枚の写真が撮影されているのかと。アプリで加工する人も多いだろう。大げさに言うと、ありのままではなく、都合よく改変して記録することだ。
私たちがスマホで撮る画像と、貴重な歴史的写真。比べるべきではあるまいし、ナンセンスと笑われるかもしれない。
だが、加工や改変といった写真の扱いに慣れてしまうことが恐ろしい。戦争などの歴史を捉えた一枚を見る、人々の目が変わりはしないか。
生成人工知能(AI)を使い、誰でも手軽に画像を改変できる時代だ。ディープフェイクと呼ばれる、リアルに作られた画像や映像が世界中でさまざまな問題を引き起こし、人を傷つける。
写真を撮ること、撮った一枚を大切にしたい。
(2025年3月1日朝刊掲載)