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伊方原発差し止め認めず 「安全神話に手を貸す判決」 被爆者ら怒り・悔しさ

 「新たな原発の安全神話に手を貸すかのごとき許されざる判決」。四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転を認めた5日の広島地裁判決を受け、運転差し止めを求めていた原告の被爆者たちから落胆や憤りの声が上がった。(渡部公揮)

 判決直後に広島市中区であった原告側の記者会見。原告団長で被爆者の堀江壮さん(84)=広島市佐伯区=は「非常に無責任な判決じゃないか」と悔しさをにじませた。

 4歳の時に爆心地から約3キロの己斐上町(現西区)で被爆。直後に父親を急性放射線障害で亡くすなど、放射線の恐ろしさは身に染みていた。福島第1原発事故で「安全神話」が崩れ、「核の脅威を体験した者として次世代のために闘う」と原告団長を引き受けた。

 2016年に67人で起こした裁判は追加提訴を重ね、原告は337人に増えた。堀江さんは40回以上の口頭弁論に欠かさず駆け付け、証人尋問にも立ったが、思いは届かなかった。それでも「原発は世界中からなくすべきだ。諦めずに今後も頑張る」と前を向く。

 原告団は原発沖合の活断層や火山の噴火の可能性などを訴えてきた。しかし、判決は「対策は十分だ」とする四国電側の主張を全面的に認めた。弁護団は「原発の安全性を慎重に検討した様子は見受けられない」と批判し、「(原発事故後に制定された)新規制基準に屈服した判決だ」と憤った。

 原告側は控訴する方針で、闘いの場は広島高裁へと移る。

各地で落胆や評価の声

 広島地裁が四国電力伊方原発3号機の運転差し止めを求めた原告の請求を棄却した5日、同原発周辺で暮らしたり、中国地方の原発と建設予定に反対したりする住民からは安全対策の充実を求める声や落胆の声が上がった。原発の再稼働に向けた動きが全国的に進む中、運転容認の判決を当然だとする意見もあった。

 「原発はないのが一番いいが、判決はしょうがない」と話すのは、山口県上関町の離島・八島の大田勝区長(87)。同島は中国地方で唯一、伊方原発から半径30キロ圏の緊急防護措置区域(UPZ)に入る。「島民のほとんどが高齢者で事故が起きても島内には逃げ場もない。事故が起きないような対策はしっかりしてもらいたい」と注文する。

 同町は中国電力の原発建設計画で長く町内が揺れ、現在は中電が使用済み核燃料の中間貯蔵施設の建設を検討する。原発建設を支持する町まちづくり連絡協議会の古泉直紀事務局長(66)は、判決を「司法が伊方原発の安全性に問題がないと判断したものだ」と評価。一方で、原発、中間貯蔵施設いずれの建設にも反対する住民団体「上関原発を建てさせない祝島島民の会」の木村力(つとむ)代表(77)は「非常に残念。原発を建設すると運転を止めるのは難しいと改めて実感した。原発も中間貯蔵施設も造らせてはいけない」と憤る。

 伊方原発の運転差し止めを巡っては、山口地裁岩国支部でも審理が続く。原告団の木村則夫団長(69)は「新規制基準への適合を盾に、司法が国や電力会社に忖度(そんたく)しているように感じる。山口では周辺住民の安全性の観点に立った判決を期待したい」と望んだ。

 広島高裁松江支部で係争中の島根原発2号機運転差し止め訴訟の原告団長、芦原康江さん(72)は「国が再び原発活用の方針にかじを切る中、司法も追認する姿勢がにじみ出ている」と残念がった。島根原発が立地する松江市鹿島町の鹿島地域協議会の亀城幸平会長(74)は「伊方原発が国の基準を満たしたという妥当な判断」と受け止めた。

 中電は「他社の訴訟のため、コメントはできかねる」とした。

(2025年3月6日朝刊掲載)

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