社説 核禁条約会議閉幕 「分断」乗り越えなければ
25年3月9日
日本被団協のノーベル平和賞受賞から3カ月。追い風が期待された国際会議は「道半ば」の印象を強く残した。米ニューヨークの国連本部で開かれた核兵器禁止条約の第3回締約国会議が閉幕した。
核保有国が加わらない状況で生産、保有、使用などを禁じる条約の実効性をどう高めるか。採択した政治宣言は一定の成果と言える。国際情勢が不安定化する中で核なき世界への決意を確認したこと。核抑止論は全ての人の生存を脅かすとして保有国に核軍縮と廃絶を求めたこと…。
重要なテーマだった核実験被害者支援などの国際信託基金創設は議論が継続となったが、日進月歩の人工知能(AI)を核兵器の運用に使えばリスクを高めるという警鐘は鳴らすことができた。
被爆国日本からも高校生平和大使たちを含めて、非政府組織(NGO)などで活動するさまざまな世代が集い、思いを一つにしたのも大きい。ただ、やるせなさも募る。
米国の核の傘の下にいることを理由に、オブザーバー参加を拒んだ石破政権には、改めて抗議したい。同時に私たちは核兵器を持つ国、その抑止力に頼る国との「分断」がさらに鮮明になった現実も直視しなければならない。
米国の軍事力に依存する北大西洋条約機構(NATO)からの参加は今回はゼロ。過去2回続けてオブザーバー参加したドイツ、ベルギー、ノルウェーが出席を見合わせたことは、やはり残念だ。
さらに言えば期間中、フランスのマクロン大統領が国民向けにテレビ演説した内容にも水を差された感がある。ウクライナ侵攻を巡ってトランプ米大統領がロシアに接近したのを受け、自国の核の傘を欧州全体に広げることを検討する、と表明したからだ。
フランスは世界4位の290発の核弾頭を持つ。米国がドイツ、イタリアなどNATOの5カ国に核を配備し、共同運用する核戦略とはこれまでも一線を画し、潜水艦への配備など自前の核戦力維持に固執してきた。核兵器をすぐに増強するというより対ロシアの抑止力であることを欧州各国と共同で位置付け、けん制する思惑かもしれない。
だが米国の核が当てにならないというなら、非人道兵器である上に膨大なコストがかかる核に頼らない安全保障を模索するのが筋ではないか。マクロン氏は一昨年の先進7カ国(G7)首脳会議で広島入りした。平和記念公園で何を見たというのだろう。
折しも締約国会議にはフランスの度重なる核実験の被害に苦しんできた仏領ポリネシアの議員が参加し、救済とともに核廃絶を強く訴えた。悲痛な叫びを指導者として十分に受け止めてもらいたい。
「核抑止によって核戦争が起こらなかった証拠はない。むしろ人類を危険にさらしている」。平和首長会議で副会長都市のドイツ・ハノーバー市長は会議の討論で語った。被爆80年の今、核兵器が使われれば何が起きるかを粘り強く発信したい。核抑止論を国際世論の高まりで包み、分断を乗り越えていきたい。
(2025年3月9日朝刊掲載)
核保有国が加わらない状況で生産、保有、使用などを禁じる条約の実効性をどう高めるか。採択した政治宣言は一定の成果と言える。国際情勢が不安定化する中で核なき世界への決意を確認したこと。核抑止論は全ての人の生存を脅かすとして保有国に核軍縮と廃絶を求めたこと…。
重要なテーマだった核実験被害者支援などの国際信託基金創設は議論が継続となったが、日進月歩の人工知能(AI)を核兵器の運用に使えばリスクを高めるという警鐘は鳴らすことができた。
被爆国日本からも高校生平和大使たちを含めて、非政府組織(NGO)などで活動するさまざまな世代が集い、思いを一つにしたのも大きい。ただ、やるせなさも募る。
米国の核の傘の下にいることを理由に、オブザーバー参加を拒んだ石破政権には、改めて抗議したい。同時に私たちは核兵器を持つ国、その抑止力に頼る国との「分断」がさらに鮮明になった現実も直視しなければならない。
米国の軍事力に依存する北大西洋条約機構(NATO)からの参加は今回はゼロ。過去2回続けてオブザーバー参加したドイツ、ベルギー、ノルウェーが出席を見合わせたことは、やはり残念だ。
さらに言えば期間中、フランスのマクロン大統領が国民向けにテレビ演説した内容にも水を差された感がある。ウクライナ侵攻を巡ってトランプ米大統領がロシアに接近したのを受け、自国の核の傘を欧州全体に広げることを検討する、と表明したからだ。
フランスは世界4位の290発の核弾頭を持つ。米国がドイツ、イタリアなどNATOの5カ国に核を配備し、共同運用する核戦略とはこれまでも一線を画し、潜水艦への配備など自前の核戦力維持に固執してきた。核兵器をすぐに増強するというより対ロシアの抑止力であることを欧州各国と共同で位置付け、けん制する思惑かもしれない。
だが米国の核が当てにならないというなら、非人道兵器である上に膨大なコストがかかる核に頼らない安全保障を模索するのが筋ではないか。マクロン氏は一昨年の先進7カ国(G7)首脳会議で広島入りした。平和記念公園で何を見たというのだろう。
折しも締約国会議にはフランスの度重なる核実験の被害に苦しんできた仏領ポリネシアの議員が参加し、救済とともに核廃絶を強く訴えた。悲痛な叫びを指導者として十分に受け止めてもらいたい。
「核抑止によって核戦争が起こらなかった証拠はない。むしろ人類を危険にさらしている」。平和首長会議で副会長都市のドイツ・ハノーバー市長は会議の討論で語った。被爆80年の今、核兵器が使われれば何が起きるかを粘り強く発信したい。核抑止論を国際世論の高まりで包み、分断を乗り越えていきたい。
(2025年3月9日朝刊掲載)