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核抑止に対抗する 第3回締約国会議から <上> NATO参加国ゼロの衝撃

官民「揺るぎない決意」

 「われわれ締約国は、高まる核の危険に立ち向かうという揺るぎない決意のもとに結束している」「廃絶は単なる願望ではない。人類の生存に不可避だ」

政策と相いれず

 米ニューヨークの国連本部で開かれた核兵器禁止条約の第3回締約国会議は最終日の7日、政治宣言を採択し、閉幕した。被爆地を励ますかのような文言が並び、各国代表が賛同の拍手を送った。ただ、核兵器廃絶へ揺るがぬ決意で結束する国の輪の中に、被爆国の政府はいなかった。

 日本は、米国の核兵器で自国を守ってもらい、「いざとなれば日本のために核攻撃するぞ」と他国を脅してもらう「核抑止」に依存する政策を取る。核兵器の保有や実験、核を誇示しての威嚇も禁止する条約とは根本的に相いれない。

 まずは条約の理念に歩み寄ってもらおうと、会議に先立ち反核団体や被爆者たちは「せめてオブザーバー参加を」と再三要求。第2回では欧米の核同盟である北大西洋条約機構(NATO)加盟国のベルギーとドイツ、ノルウェーが参加した事例も示して説得した。政府は「わが国の核抑止政策について誤ったメッセージを与える」となおもかたくなだった。

 「結束を確認できた。会議は成功」とラフメトゥリン議長(カザフスタン)は閉幕後に述べたが、会期中、条約の推進機運に水を差す事態も起きた。オブザーバー参加するはずだったノルウェーが一転して姿を見せず、NATO加盟国が初めてゼロになったのだ。「衝撃、とまでは言わないが…」。非政府組織(NGO)側で中心的な役割を担う「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))の川崎哲(あきら)国際運営委員は語る。

 ノルウェーは、NATO加盟ながら条約実現の端緒をつくった国だ。2013年に政府が「核兵器の非人道性に関する国際会議」を主催すると、核兵器の違法化を求める機運が広がった。昨年12月にはノーベル平和賞授賞式のため首都オスロを訪れた日本被団協を歓迎。代表委員で広島県被団協の箕牧(みまき)智之理事長(82)は、ストーレ首相と面会した際に締約国会議へオブザーバー参加する意向を伝えられたという。

 何があったのか―。あるNATO加盟国の外交筋は「締約国会議を前に加盟国間で協議した」と明言し、足並みをそろえたことを認めた。日本政府もその情報を得たことは想像に難くない。

引き金は米政権

 NATOが不参加で「結束」せざるを得なかった引き金は米トランプ政権だ。ロシアに侵略されたウクライナへの軍事支援を巡り、米国とNATO諸国とのあつれきが強まった。フランスのマクロン大統領は核抑止による欧州防衛の検討を口にした。

 日本で「NATO加盟国も…」と政府を説得することは、もう難しいだろう。ICANのメリッサ・パーク事務局長は強調する。「あくまで目標はオブザーバー参加という甘い球を打たせようとすることではなく、条約加盟の先にある核兵器廃絶。本質的な問題に取り組まなければならない」。核抑止という最大の壁のことである。

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 核兵器禁止条約の第3回締約国会議は3~7日、外交官とNGOの関係者たちが対等な立場で発言し、相互信頼に裏打ちされた世界の実現へ締約国と市民が力を合わせていくと誓った。5日間を振り返り、今後の課題をみる。(金崎由美)

(2025年3月14日朝刊掲載)

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