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社説・コラム

[A Book for Peace 森田裕美 この一冊] 「新版 原発崩壊」樋口健二著(現代思潮新社)

弱者の犠牲 浮き彫りに

 東京電力福島第1原発事故が起きた2011年に発表され品切れとなっていた1冊が昨年、「新版」として復刊した。原発がいかなる犠牲の上に成り立っているか―。1970年代初頭から撮りためられた写真と文章が、訴えかけてくる。

 著者は自ら「売れない写真家」を名乗る報道写真家の樋口健二さん(88)。公害や原発、戦争の傷跡など、社会の暗部を半世紀以上にわたって撮影し告発し続けてきた。

 とりわけ原発については、国内初の原発被曝(ひばく)裁判原告だった故岩佐嘉寿幸さんとの出会いを機に「被曝労働者」の実情に迫る。77年には定期検査中の日本原子力発電敦賀原発(福井県)内部に入り、初めて炉心部で働く作業員たちを撮影。多重な下請けの「最底辺」に置かれた労働者の危険な手作業で原発が成り立っている現実を世に知らしめた。

 「売れずとも伝えなければ闇に葬られる」との思いで続けた記録は、皮肉にも福島の原発事故で光が当たった。

 本書は、原発が日本列島に次々に建設されていく70年代の「崩れゆく風景」から11年の「福島第一原発、崩壊」まで全7章で、原発を巡る社会を切り取る。著者は労働者や原発建設に関連し命を絶たれた遺族の声を聞く。それらを踏まえ「社会的弱者を使役し、搾取」している構造に憤る。

 新版には寝たきりになった元労働者や福島第1原発の事故処理作業中に死亡した男性の遺族の姿も収めた。地震大国の日本で、原発回帰にかじを切る政治権力への著者の怒りがほとばしる。

 「権威主義にだまされてほしくない」―。老写真家の切なる訴えが福島の事故から14年が過ぎた今、胸に刺さる。

これも!

①樋口健二著「慟哭の日本戦後史」(こぶし書房)
②樋口健二著「フクシマ原発棄民 歴史の証人」(八月書館)

(2025年3月17日朝刊掲載)

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