核抑止に対抗する 第3回締約国会議から <下> 市民の行動に「希望の光」
25年3月16日
政策提言やライブ配信
議場での採決には加われないが、各国の市民と政府代表が同等の立場で議論する―。3~7日に米ニューヨークの国連本部で開かれた核兵器禁止条約の第3回締約国会議は、隔たりのない議場内を外交官と非政府組織(NGO)のメンバーたちが自由に行き来するのが自然な光景だった。
1970年に発効したもう一つの多国間核軍縮条約である核拡散防止条約(NPT)は、米国やロシアなどの大国が核保有の「特権」に慢心し、市民の声は届きにくい。2017年に禁止条約が国連で採択された際、条約実現に尽力したカナダ在住の被爆者サーロー節子さん(93)が語った「核軍縮に初めて真の民主主義が持ち込まれた」の一言が象徴している。
そのサーローさんは今回、ニューヨーク入りし、締約国会議を熱心に傍聴した。各国の若者に次々と囲まれ「若い人たちが重要な活動をしてくれ、涙が出るほどうれしい」と胸に手を当てた。NGOの「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))とピースボート(東京)が主催したフォーラムにも出席し、核実験の被害に遭った仏領ポリネシアやマーシャル諸島の市民、在韓被爆者たちと交流した。
政府とは対照的
ICANによると、会議に足を運んだ世界各国の市民は千人に上るという。日本からも高校生や大学生、被爆者たちあらゆる世代が参加した。しかも積極的だ。作業文書を提出したり、議場で政策を提言したり。核抑止に依存し、不参加に徹する日本政府とは、あまりに対照的だ。
「ジェンダーと核兵器」をテーマに活動する関東の若者たちの団体「GeNuine(ジェヌイン)」の徳田悠希さん(23)は議場で発言したほか、国連軍縮研究所やアイルランド、メキシコ共催の関連行事に登壇した。
一橋大大学院生としての研究も踏まえ、日本の家父長制と被爆者差別の関係性などを指摘する作業文書を提出した。「来年の開催が決まった第1回検討会議に向けてさらに調査、発信する」と意気込んだ。
一般社団法人「核兵器をなくす日本キャンペーン」などとともにライブ配信に取り組んだのは、市民団体「核政策を知りたい広島若者有権者の会」(カクワカ広島)。現地入りした田中美穂共同代表(30)や瀬戸真由さん(33)たちが討議内容の解説や、市民の活動ぶりを現地から連日伝えた。
広島県世羅町出身の立命館大3年生、倉本芽美さん(22)もその輪に加わった。若者たちの団体「KNOW NUKES TOKYO(ノーニュークストーキョー)」のメンバー。「国際的な議論を肌で感じたい」と初めて締約国会議に訪れ、多忙な5日間を過ごした。
多様な人結ぶ場
「旧ソ連の核実験場があったカザフスタンから来た若者とつながれたのが大きな収穫の一つ。核被害の体験をどう継承しているのか、もっと知りたい」
締約国会議は単に条文を巡る議論を超え、核兵器なき世界を求めて集う国や世代、性別、なりわいも多様な人たちを結ぶ場となっている。核による脅しを拒否し、相互信頼による平和を目指す前途は厳しいからこそ、最終日に合意した政治宣言がいう「激動の時代における希望の光」を絶やさぬ努力を皆で続けたい。(金崎由美)
(2025年3月16日朝刊掲載)