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社説・コラム

『潮流』 勲一等の意味

■論説主幹 山中和久

 米軍による日本本土空襲を指揮したカーチス・ルメイ氏に、日本政府は勲章を贈っている。東京大空襲から80年を機に、是非を改めて考えたい。

 ルメイ氏は戦時中、日本に対する爆撃機部隊の司令官だった。軍事関連施設への爆撃から、夜に焼夷(しょうい)弾で都市を焼き尽くす無差別爆撃へと戦略を変更した張本人だ。女性や子どもを含めた銃後の市民をも標的にした。

 回顧録などで「東京大空襲は近代航空戦史上で画期的な出来事」と自賛し、「ソ連の対日参戦や原爆投下がなくても日本は降伏していた」と話していた。広島、長崎への原爆投下は「トルーマン大統領の命令で指揮しただけだ」とも。

 勲一等旭日大綬章の授与は1964年。当時は米空軍参謀総長で、航空自衛隊の育成に貢献したのが理由だった。授与決定を報じた本紙夕刊は「怒りと不信の被爆者」の見出しで被爆地の怒りを伝えた。日本政府には広島の悲惨への理解がなかったとしか思えない。

 ルメイ氏をもっと知りたくて、上岡伸雄著「東京大空襲を指揮した男 カーティス・ルメイ」を読んだ。自国の犠牲を最小限にするため、相手を徹底的に痛めつける。一貫した考えは東京大空襲で形づくられたようだ。

 戦後は、旧ソ連との軍拡競争を進めた。68年の大統領選では、米国独立党の副大統領候補で臨み「戦争に勝つためには核を含むあらゆる兵器を使わなければならない」と発言していた。

 「戦後の功績に報いた」とする日本政府は今も、取り消しを求める声に取り合う気がない。このままでは戦後の核を巡る振る舞いも功績に認めることになる。考え続ける「反面教師」の勲章として、忘れたくない。

(2025年3月15日朝刊掲載)

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