原民喜 生誕120年で特集 雑誌「詩と思想」3月号 「生きるための言葉」読み解く
25年3月19日
小説「夏の花」で知られる広島市出身の被爆作家、原民喜(1905~51年)はことし、生誕120年。雑誌「詩と思想」は3月号で特集を組んだ。被爆80年を迎える今、詩人たちが改めて原民喜に迫る。(仁科裕成)
詩人や研究者たち計11人が参加している。エッセーや評論、対談など約70ページにわたって掲載。親しい人の喪失や、被爆などで心に傷を負った民喜の生涯と、その影響下で生み出された詩や小説を読み解いている。
文芸評論家の神山睦美さんはインタビューで、民喜の「鎮魂歌」の「自分のために生きるな、死んだ人たちの嘆きのためにだけ生きよ」などという箇所に注目。苦しみを他者と共にすることができる人だったとして、「かつて誰も表現しなかった言葉を詩の言葉として原民喜は表している」と語る。
本紙「中国詩壇」で選者を務める詩人の野木京子さんは、病気の妻を看病する日々を描いた「秋日記」など、原爆について直接書いていない作品でも「閃光(せんこう)が頁(ページ)の下から光っているような、ところどころそういう異様な緊張感がある」と指摘する。
民喜の心情に迫るため、広島や千葉へ足跡を訪ねに行った自身の経験も語る。ロシアのウクライナ侵攻など世界で起きる戦火のたびに、思い出すのは戦争について書いた民喜の言葉だという。
他にも原民喜研究者の竹原陽子さんや、作曲家で詩人の松本憲治さん、詩人の橘しのぶさんたち広島ゆかりの執筆者による評論も収録している。
編集した詩人青木由弥子さんは「自らの無力を知る詩人は、生きるためにどのような言葉を紡いだのか、読者と共有したかった。過去の作家だが、現在や未来の私たちに静かに呼びかける存在として、考える機会にしてほしい」としている。土曜美術社出版販売、1430円。
(2025年3月19日朝刊掲載)
詩人や研究者たち計11人が参加している。エッセーや評論、対談など約70ページにわたって掲載。親しい人の喪失や、被爆などで心に傷を負った民喜の生涯と、その影響下で生み出された詩や小説を読み解いている。
文芸評論家の神山睦美さんはインタビューで、民喜の「鎮魂歌」の「自分のために生きるな、死んだ人たちの嘆きのためにだけ生きよ」などという箇所に注目。苦しみを他者と共にすることができる人だったとして、「かつて誰も表現しなかった言葉を詩の言葉として原民喜は表している」と語る。
本紙「中国詩壇」で選者を務める詩人の野木京子さんは、病気の妻を看病する日々を描いた「秋日記」など、原爆について直接書いていない作品でも「閃光(せんこう)が頁(ページ)の下から光っているような、ところどころそういう異様な緊張感がある」と指摘する。
民喜の心情に迫るため、広島や千葉へ足跡を訪ねに行った自身の経験も語る。ロシアのウクライナ侵攻など世界で起きる戦火のたびに、思い出すのは戦争について書いた民喜の言葉だという。
他にも原民喜研究者の竹原陽子さんや、作曲家で詩人の松本憲治さん、詩人の橘しのぶさんたち広島ゆかりの執筆者による評論も収録している。
編集した詩人青木由弥子さんは「自らの無力を知る詩人は、生きるためにどのような言葉を紡いだのか、読者と共有したかった。過去の作家だが、現在や未来の私たちに静かに呼びかける存在として、考える機会にしてほしい」としている。土曜美術社出版販売、1430円。
(2025年3月19日朝刊掲載)