社説 ガザへの攻撃再開 イスラエル なぜ停戦できぬ
25年3月21日
イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザへの攻撃を再開した。400人以上を死亡させた大規模空爆に続き、地上作戦も再び始めた。イスラム組織ハマスとの停戦合意から2カ月。イスラエルは攻撃を止め、停戦の枠組みを尊重するべきだ。
停戦の第1段階はハマスが人質を一部解放し、イスラエルが攻撃を停止する内容で今月1日までの期限があった。双方はその後の進め方で真っ向から対立。イスラエルは第1段階の延長を主張し、ハマスは恒久停戦につながる第2段階への移行を求めていた。
考え方に違いがあるにしても、攻撃に踏み切るのは非道だ。戦闘を終わらせる方向で協議するはずだったではないか。「戦火の下でのみ交渉を続ける」とするネタニヤフ首相の姿勢は理解できない。ハマス側が「一方的な停戦合意破棄」と非難するのも当然だろう。
イスラエルが攻撃を再開した背景には、ネタニヤフ首相の保身がありそうだ。政権を維持するには、恒久停戦に反対する極右政党の支持が欠かせない。月内に2025年の予算案の承認を国会で得る必要があるという。自分の地位を守るため停戦合意をほごにし、子どもを含めた多数の命を奪ったのなら許せない。
ネタニヤフ氏はガザに59人いるとみる人質の奪還を攻撃の目的の一つとするが、逆効果だろう。「人質を見捨てるのか」と指弾する家族会の声に耳を傾けるべきだ。
国際社会はこの事態を見過ごしてはならない。中東諸国はすぐに非難の声明を出した。18日の国連安全保障理事会でも、戦闘の停止を求める意見が相次いだ。イスラエルの攻撃をやめさせるよう早急に動かねばならない。
ただ、同国をいさめる力が最も大きいはずの米国はイスラエル寄りの姿勢を崩していない。安保理でも「責任はハマスのみにある」と主張した。イスラエルは攻撃を再開する前に米国に説明したという。制止しなかったのなら、米国は容認したことになる。
トランプ大統領はガザ停戦を実現したと豪語し、自身の外交成果と誇示してきた。しかし、もろくて危ういものであった。ガザ住民を域外に移住させ、この地をリゾート地に再開発するというとっぴな構想も、パレスチナやアラブ諸国の反発を招いた。
トランプ氏はロシアとウクライナの和平交渉でも、ロシアに肩入れする場面が目立つ。「平和の使者」を自称し仲介役を担うのであれば、偏った態度は慎むべきだ。
国際社会の喫緊の課題は、200万人のガザ住民の命と暮らしをどう守るかだろう。ほぼ全員が住む家を追われ、水や食料、医薬品、燃料が著しく不足する。そんな中でイスラエルは今月上旬、ガザへの人道支援物資などの搬入を止め、電力の供給も停止した。犠牲者は4万9500人以上になっている。
ハマスは幹部が殺害されるなど組織が弱体化しているが、状況しだいでは報復に出る可能性もある。暴力の連鎖を再び招いてはならない。
(2025年3月21日朝刊掲載)
停戦の第1段階はハマスが人質を一部解放し、イスラエルが攻撃を停止する内容で今月1日までの期限があった。双方はその後の進め方で真っ向から対立。イスラエルは第1段階の延長を主張し、ハマスは恒久停戦につながる第2段階への移行を求めていた。
考え方に違いがあるにしても、攻撃に踏み切るのは非道だ。戦闘を終わらせる方向で協議するはずだったではないか。「戦火の下でのみ交渉を続ける」とするネタニヤフ首相の姿勢は理解できない。ハマス側が「一方的な停戦合意破棄」と非難するのも当然だろう。
イスラエルが攻撃を再開した背景には、ネタニヤフ首相の保身がありそうだ。政権を維持するには、恒久停戦に反対する極右政党の支持が欠かせない。月内に2025年の予算案の承認を国会で得る必要があるという。自分の地位を守るため停戦合意をほごにし、子どもを含めた多数の命を奪ったのなら許せない。
ネタニヤフ氏はガザに59人いるとみる人質の奪還を攻撃の目的の一つとするが、逆効果だろう。「人質を見捨てるのか」と指弾する家族会の声に耳を傾けるべきだ。
国際社会はこの事態を見過ごしてはならない。中東諸国はすぐに非難の声明を出した。18日の国連安全保障理事会でも、戦闘の停止を求める意見が相次いだ。イスラエルの攻撃をやめさせるよう早急に動かねばならない。
ただ、同国をいさめる力が最も大きいはずの米国はイスラエル寄りの姿勢を崩していない。安保理でも「責任はハマスのみにある」と主張した。イスラエルは攻撃を再開する前に米国に説明したという。制止しなかったのなら、米国は容認したことになる。
トランプ大統領はガザ停戦を実現したと豪語し、自身の外交成果と誇示してきた。しかし、もろくて危ういものであった。ガザ住民を域外に移住させ、この地をリゾート地に再開発するというとっぴな構想も、パレスチナやアラブ諸国の反発を招いた。
トランプ氏はロシアとウクライナの和平交渉でも、ロシアに肩入れする場面が目立つ。「平和の使者」を自称し仲介役を担うのであれば、偏った態度は慎むべきだ。
国際社会の喫緊の課題は、200万人のガザ住民の命と暮らしをどう守るかだろう。ほぼ全員が住む家を追われ、水や食料、医薬品、燃料が著しく不足する。そんな中でイスラエルは今月上旬、ガザへの人道支援物資などの搬入を止め、電力の供給も停止した。犠牲者は4万9500人以上になっている。
ハマスは幹部が殺害されるなど組織が弱体化しているが、状況しだいでは報復に出る可能性もある。暴力の連鎖を再び招いてはならない。
(2025年3月21日朝刊掲載)